no.07 池袋の空に浮かんでいたもの
昔、東京に住んでいた時の話。
そのころ私は、池袋にある職業訓練校に通っていた。ある日の夕方、クラスメイト3人とコンビニまで飲み物を買いに行った時だった。
「なにあれ」
一人がそう言った。彼女の視線の先には小さな広場があり、そこには20人ほどの人集りができていた。彼らは皆同じように空を見上げ、同じ方向へと指をさしていた。
何をしているのかと不可思議に思ったが、授業中の休憩時間だったため、特に気にもとめずコンビニへと向かった。
だが、コンビニから帰ってきてみると、その人達はまだ同じ方角を見上げ、指をさし続けている。
何かあるのだろうか?私たちは好奇心にかられ、彼らと同じように空を仰いでみた。が、ただそこには高いビルに覆われた狭い夕焼け空が広がっているだけだった。
「なんだ、なにもないじゃん」
そう言って広場に視線を戻してみると、彼らは皆同じようにこちらを見つめ、私たちを指さしていた。
人集りだと思っていたそれは夕焼けのせいか、嫌に黒く歪んで見えた。
恐ろしくなった私たちは、走って教室まで戻った。
そこで思い出したのだ。この学校の近くには、広い墓苑があったことに。
あの黒い人集りは、いったい何を見ていたのだろうか。この池袋の空に、何があったというのだろうか。
私たちは、見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
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