第10話 恋心の行く末の末

「現場には背の高い茂みがあるから、スカートは隠れてしまう。君は、その……」僕は言いにくい言葉に言い淀んでしまう。しかし覚悟を決めて言った。


「胸が小さいから、女生徒だとは気づかれなかったんだ。髪も短いから、男子生徒に見えても不思議はない。でも顔は見えた。でも雀ちゃんは君が犯人だなんて毛ほどにも思えなかった。だから君は疑われなかったんだ」


 美代子ちゃんは狼狽したりせず黙って僕の話を聞いていた。その反応は少し予想外だった。


「しかし、雀ちゃんは盗撮に気づき、君に相談した。困っている彼女を放ってはおけなくなった君は、見つける気のない犯人捜しを始めた。僕が筆頭容疑者になったのはまあ、偶然だろうね」


 僕の推理披露はそこで終わった。黙って美代子ちゃんの反応を待った。それは判事の判決を待つ被告人の気分だった。普通は逆なんだろうけれど、僕の性格上そう思ってしまった。


「ねえ、何か大事なこと言い忘れてない?」美代子ちゃんはにひるに笑って言った。それは無理をしているように見えた。

「大事なことって?」僕はそれが分かっていたが、どうしても言えなかった。僕なんかが言うには覚悟が足りなかった。


「あんたの推理じゃ大事な要素が説明出来てない。犯行の動機がね」


 動機。女の子の着替えを盗撮したくなる動機とは。


「はっきり言えよ。私が変態だってさ」


 悔しそうに、美代子ちゃんは叫んだ。


「お前だって軽蔑してんだろ!」


 目には涙を浮かべ、唇を噛み締めている。しかし、僕の目は見てくれない。僕は心がざわつくのを感じた。


「軽蔑なんかしてないよ。人が誰かを好きになることにルールなんてないんだから」人を好きなったことがない僕に、人の恋路にどうこう言う権利なんてないのだ。


「でも、盗撮は間違いだ」人を好きになったことがない僕だけれど、好きな子の裸を見たいと思う気持ちは知っている。そして、それが異常なことではなく普通のことだということも。


「そんなのは分かってる!でも、でも、どうせ告白したって拒否されるだけ」


 彼女の思いを感じて、僕は決断をした。彼女の中で拗れてしまった思いの糸を、僕が解そうと思った。

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