愛川きむら

夏の思い出。あなたと買い物に行ったこと。


肌荒れがひどかったわたしは、夏になると紫外線で顔が真っ赤になる。


あなたと会う約束をした日にちょっと高めのクリームを買い、


あなたと会う一週間前からたっぷり塗って、ニキビを防いだ。


そのかいあって、約束の日にわたしの顔は一時的に肌が白かった。


この日だけでいい。この日だけでいいから、わたしに魔法をかけて。


そう願いながらほっぺに塗りこませていたから。


さて、あなたの隣を歩く。


今日はいつにも増して日差しが強い。でも怖くない。


バッグの中に潜む、肌に低刺激の日焼けクリームがある。


並んで歩くあなたの腕はほんのり焼けていた。


すれ違う数人の人と目が合うたびに、もしかしたらわたしたちはカップルだと思われているんじゃないかと思う。


しかし、あなたは特に気にしている様子もない。


……ちょっとしょんぼり。


時間が短く感じられた。あっという間にお昼になり、わたしたちはショッピングモールの一角にあるフードコートへ訪れた。


家族連れが多く目にとまり、つい隣のあなたを意識してしまう。


わたしもあなたと、あんなふうになりたい。


心でそう願ったとき、あなたはわたしの右手をにぎった。


ぎゅっ。


反射的に顔を上げると、あなたの情熱的な眼差しと目があった。


期待させられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛川きむら @soraga35

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る