異世界で幽霊として逝きていきます

@akira-take

プロローグ

第1話『死んだらあの世に逝くんじゃないの?』


あるアパートの一室

閉めたカーテンの隙間から昼の日差しが差し込む


マンガや雑誌が散乱し、テーブルには缶コーヒーの空き缶が何本も放置されている

朝に食べた菓子パンの袋もくしゃくしゃになって転がっていた


敷きっぱなしの万年床に横たわって、スマートホンで動画サイトを巡回していた男は表示されている時刻を見て起き上がる



「飯買いに行かないと……昨日買っときゃ良かったなぁ」



休日に部屋から出るのを億劫だと感じながらも、空腹には変えられず渋々財布と鍵を持って家を出る



「微妙に遠いんだよなぁ」



男の住む部屋から最寄りのコンビニまでは徒歩で10分弱、なるべく安い物件を選んだのでそこは致し方ない

春先とはいえ長袖で出た事を少し悔やんだ


日曜日の昼過ぎだからか、外で遊ぶ子供たちもちらほら見かける



「元気だなぁ……外で遊ぶ子もまだいるんだな」



自分が子供の頃はもっといっぱいいたんだけどなぁ、と昔を懐かしみながら歩いていると

ボールを追いかけて走って通りに出てきた子供にトラックが迫っていた

路上駐車している車が死角になって見えないらしい



「マジかよっ!?おいっ!!」



とっさに走っていき、子供の襟首を掴んで路肩の方へ投げ飛ばしたが

その反動で自分の体が迫ってくるトラックの前へ出ている事に気付いた



『やっべ、俺死ぬんじゃね?ベタなマンガかよ……』



トラックの運転手が気付いた時にはもう遅く、はねられた男は10mは吹き飛んでピクリとも動かなかった





*****





ぼんやりと意識が戻っていく感覚がある

真っ暗な視界が少しずつ開けていく



『…………どこ?』



見え始めた視覚を周囲に向ける

全く見覚えがない……


トラックにはねられた現場ではなく

その後搬送されたであろう病院のベッドでもなく

自堕落な生活を送っていたアパートの自室でもなかった


石のレンガ造りの壁、ガラスの入っていない扉付きの木枠の窓

石壁にある出っ張りにはローソクを立てる燭台(しょくだい)が乗っている


見えてくる景色と周りにいる人たちの目線を考えても、自分が空中に浮いているんであろう事がわかった



『浮いてるって事は……やっぱ俺死んだのかな』



実際周りにいる人間は悲しそうな、寂しそうな泣き顔をしていた

見覚えのない人たちだけど……


みんな装飾のない、麻の様な布の服を着ている……見慣れたTシャツやジーンズの人はいない



『何これ、なんか映画みたいな恰好だな……葬式か?って事は…………』



男は恐る恐る自分の足元を見る


自分の膝から下が完全に透けて見えなくなっていた事よりも気になる事があった



『…………誰?これ……』


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