第1話 再会(りめいく)
──遠ざかっていく。
最期まで僕を見ていてくれた、名前すら知らない彼女。
知らないのに、温かくて。いつの間にか、好きになっていて。
僕は今飛んでいる。抵抗はしない。生きていた頃に学んだ自然の摂理とは全く違うが、悪い気はしないので身を任せている。これが昇天っていうやつなのかもしれない。
……悪い気はしないよ。彼女と会えない事実を思い出し、泣きたくなる。あれ、あれ。ああ、嘘ばかり。悪いことだ。悪いことじゃないか。彼女と会えない。彼女と会えない。彼女と会えない。
──もう、彼女と会えない。
そう思った、その時のことだった。
「グレープ君はジャパリパークに行ったんだよ」
「フルルに会えてるといいなぁ」
ジャパリパーク?フルル?
ノイズの混じった、数人の声だった。それでもきちんと聞き取れて、僕には到底理解できない単語を語り出す。
何だ、何なんだ、でも、グレープ。その名前は聞こえた。紛れもない僕の名前だ。お世話をしてくれたヒトからつけてもらった、今はもう亡い名前。
──ああ、もう、わけが分からん。
空は僕を裏切った。少し浮遊感が心地よくなってきたというのに、突然それに突き放される。
僕は真っ逆さまに落ちていった。
***
──目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。
静寂を破る波の音が僕を攫いに来たのと同時に目を覚ました。沈黙、思考、無理解。……ここはどこなんだ。まさか生き返った……という展開はゾッとしないな。
それに、雲一つない青い空。それはどこまでも続く自由をよく表していた。心が清々しい。でも、本当に僕は、どこに来てしまったんだろう……。
「「「きゃーーー!!!ペパプーーー!!!」」」
突然の喝采。耳を貫く。僕の身体は必要以上に驚いた。
……え?いや、何だ今の!?
「……はぁ、はぁ……私の『THE・コウテイペンギン』な歌、どうだった?上手く歌えていただろうか……?」
息は上がっているが、それでも様になっているくらいに凛としていて落ち着いた声が聞こえた。
ペンギン……?ペンギンが歌っている……?
ふと、思い出した。僕がここに到達する前に聞こえてきた声。
──フルルに会えてるといいなぁ
まるでフルル、ってヒトに僕を会わせたいような言い方だ。仮に、あの声とここに来たのとが関係しているとする。
フルル、ペンギン、会わせたい、僕に。
──あれ?まさかフルルって、ヒトじゃないのか!?
咄嗟に、辺りに視線を巡らせる。すると、川を見つけた。先程の歓声が聞こえた方向に伸びている。
僕は泳いだ。何故か体が軽くなった気がした。こんな老体なのに、こんなにも元気に泳げている。この世界だけの自然の摂理のせいなのか、彼女のせいなのか。
きっと、フルルは……
フルルは……
「……さて、次の曲行くわよ!フルルで、『やくそくのうた』!」
「ふぁ~い」
水中から顔を上げると共に、そんな声を耳に入れた。
遠くからでも分かる。あれは彼女──フルルだ!間違いない、僕がずっとずっとずっと片想いしていた子。岩の上の彼女を、ただひたすら見つめていた。触れられない距離にいる彼女を、ただただ。
彼女の名前はフルル……フルルだったんだなぁ……。
「みんな~フルルのソロ聴いてね~」
どいて……みんなどいて……!ヒトの波を掻き分け、最前列に来た。
彼女の美貌は目前だ。ヒトの姿をしているが、彼女は僕達とよく似ている。前髪が少し桃色に染まった、黒い髪。身体は白と黒だけで表現することができて、僕の身体にもある点々が描かれている。
声を、あげようとした。
「──心の中のきみは」
でも、彼女の綺麗な歌声には勝てなかった。
僕は黙って聴いていた。聴き惚れた。透き通るような歌声が、僕の胸に刺さっていく。ここで叫んで邪魔をするのは、とてももったいない気がした。っていうか、叫ぶことも忘れるほどに歌声の美しさが半端なかったのだ。
……その歌は、何故か僕に語りかけてるような気がした。
***
「あはぁーーー!ライブ、上手くいってるみたいですねぇ~……」
「マーゲイ、少し怖いわ……」
「ご、ごめんなさいプリンセスさん……ん、あれ……?……あっ、あのペンギン!?」
「えぇっ、どうしたの、マーゲイ……?」
「紫の腕輪……まっ、間違いない……!」
「……?」
***
こうして歌は終わった。余韻にいつまでも浸っていたかったが、いつまでも思い出に残りそうな歌声と、このチャンスを逃したら会えるかも分からない彼女。
進む道はただ一つだ。フルルに……
「フルルさんに会いたいですか?」
会いたかったのに、謎の人物が行く手を阻む!
髪は黄色、身体は黄色と白。ヒトの姿をしているのに、彼女は何故かもともと僕がいた世界で見た『ネコ』のような耳と尻尾がついている。モフモフだ。
「グレープさんですね?事情は知っています!フルルさんに会いたいなら、どうぞこちらへ!」
……フルル、ああ、フルル!
僕の名前を知っている人物だ。きっと、きっと彼女についていけばフルルに会えるのだ。僕は、マーゲイと名乗るネコについていくことにした。
──歩いて、歩いて、心臓を高鳴らせて。
案内された場所で、嗅覚が汗の匂いを拾って。
「──ただいま帰りました!」
「マーゲイ!本当にどうしたのよ?急に出ていって……」
「ふふん、聞いて驚いて下さい!なんと!ペンギンを連れてきたのです!」
注目が、僕に集まる。五人のヒト。でも、やっぱり白黒で、フルル程ではないが僕と似た何かを感じる。
とりあえずは礼儀に反すると思い、お辞儀をする。……あれ?奥にいるのって。動こうとしたら、急にフルル以外の四人が飛びついてきた。目を輝かせていたもので、もちろん無視はできなかった。
「可愛いわね~!私ももともとはこんなペンギンだったのね」
「ん……このペンギン、フレンズ化してないぞ?」
「聞いたことがあります!フレンズ化する動物としない動物がいるって……」
「でもサンドスターの影響は受けてるからヒトっぽい動きはできるんだなー!」
フレンズ……?サンドスター……?また分からない単語が出てくる。
この世界は、本当に何なんだろう。でも、でも。
「フルル~、食べてんじゃねーよ……」
何か丸いものを頬張る彼女。彼女がいる世界なのだから、きっと、きっと素敵な世界なのだと思う。ここに来ることができた理由は分からないけど、来て良かった、とは言えるのかな。
ボーッとしていると、不意に、目が合った。
「──グレープ君?」
僕の名前を知っていた。その柔らかい声で呼ばれて、戸惑う。本当に愛らしいヒト……いや、ペンギンだ。
「フ、フルル?ちょっと、どういうこと?」
「あ、私が説明します!」
マーゲイは、全てを話した。僕の悲しい過去とフルルへの恋。充分に、語られた。まるでもう一度自分の一生を経験していたかのように、完璧な説明だった。
──ただ、僕が求愛していた方の彼女は、ただの絵だと知った時は驚いたけど。
(……何か、申し訳ないな)
思わず、声に出す。
「大丈夫だよ~」
それに、反応をする彼女。
……僕は彼女を見て目を見開いた。何せ、ヒトの形をした彼女と、ペンギンの形をした僕。通じるなんて思わなかった。フルル、きみは僕の言葉を理解できるの……?
「フルル……グレープ君の言葉が分かるのか?」
「うん……コウテイには聞こえない?」
「同じ種類だからでしょうか?私はそもそもペンギンじゃないので分かりません!」
「はは、そりゃそうだぜ!」
「「「あはははははっ!」」」
──ここに来て良かった。
本当に、良かった。
ここに来ないまま天国か地獄に行って、後からこのような場所があると知らされたら、気がおかしくなっていたくらいに。
それくらい本当に、本当に素敵な場所だ。
とても温かいものを感じる。悲しい過去を忘れさせてくれる。
ああ、楽園を教えてくれた彼女に。
裏切られて傷ついていた僕の前に現れてくれた彼女に。
こうして目の前にいてくれるだけで、こっちが涙を流してしまいそうになるくらい、ずっと話をしたかった彼女に。
(──ありがとう)
みんなには聞こえない声で、囁いた。
***
【アトガキ】
ふと思い立ったももあう一話のリメイク。恐らくリメイクは一話で終了かもしれない。謎の妄想が何でこんなに長く続いたんだ。
いや、マジで初期の頃のエピソード見てると吐き気するわ。
何で地の文に擬音語を入れたのかが不思議で仕方がありません。
何で地の文が少ないのか不思議で仕方がありません。
そしてしつこいようだが新アカウントをカミングアウトするタイミングが掴めん。企画終わる頃でいいかな?
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