第160話 桃紫

……。


…………。


………………。


「……ハァ」


AYPのため息が聞こえた。

そうだ、ペンギンは耳が良いんだ……。


僕とフルルとイカスミが触ってるのか触ってないのかギリギリの所に、AYPの背中のセルリアンは着地した。

死を覚悟していた僕は静かにホッとした。

「……気ガ狂ッタミタイ……。人ニ優シク、ナンテ考エルカラ……。」

PPPの曲……。

もしかして……もしかしてAYPは……

「大量ノサンドスター・ロウガ無駄ニナッチャッタ。疲レタナ……。」


「今だ!」


フルルがAYPに駆け寄る。

「え~い!」

そして背中のセルリアンにビンタした。

「このまま……行けば……!」

(フルル、すごい!)

もうすぐセルリアンが壊れる。

そう思ったのに。

「コノヤロウ!」

セルリアンが光ってるフルルの腕に噛みついた。

「……!サンドスターが……!」

「疲レタノハ……嘘ダヨ……」

セルリアンが吐き出したフルルの腕に輝きはなかった。

「……今回ハサンドスターヲ食ベルダケデ済ンダガ、次、下手シタラ……ネ?」

「う……う……」

「邪魔ダ」

セルリアンがフルルをはじきとばす。

「……っ。」

(フルル、大丈夫!?)

「大丈夫……安心して、グレープ……」

フルルはそう言って横になったまま僕を撫でた。

(フルル……)


「……。」


それでも見下してくる目。

僕は怖かった。

でもフルルを傷つけて。

ひどい。

「……グエェエェェェ!」

僕は走り出した。

「グレープ!?……野生解放してる。グレープも出来たんだ……。」

「チッポケナペンギンノニ……死ニタイノカナ?」

背中のセルリアン。やっぱり襲いかかってくる!

「グエッ!」

「……避ケタカ」

これが……サンドスターの力。

老人でも軽々動ける。

ほのぼのした日常でずっと溜まっていた。まだまだある。

「デモネ……背中ノセルリアンハ6匹モイルンダヨ……」

連打さえ避けた。体がふわりと浮かぶ。

「デモ……避ケテイルダケダロウ。コレデ私ヲ倒セルトデモ?」

……確かに。

しかもサンドスターも限りはある。

ひたすら避け続けていたら……


……ここまでか。


そう思ったその時。


「グレープ!」

(フルル!?)

フルルが口をおさえている。

「何かね、唇が熱いなって思ったら……サンドスターがそこに溜まってたんだ!だから……グレープ……」

フルルは手を僕に向けて叫んだ。


「フルルの『ラブラブキスアピール』、受け取ってぇ!」


サンドスターの塊が飛んできて僕にぶつかった。

力が溢れてくる。

「……グエェッ!」

僕はAYPの方へ走った。

「……マズイヨウダネ?デモ私モ負ケナイヨ?」

襲いかかるセルリアン。でもそんなもの……

「……ウワ!」

ビンタで壊せるんだよ……!

「……ったく、こんなシリアスな場面でもリア充かよぉー」

僕に叫ぶイカスミ。そうか、イカスミいたのか。全然喋らないから忘れてた。

「グエェェェェェェェェェェ」

僕はもう取り敢えず鳴いといた。

AYPのせいで頭の中ぐちゃぐちゃだからね……。


「……マダ、マダセルリアンハイル!」


「……これ行った方がいいぜ?」

「そうだね!」

お、フルルとイカスミも参戦だ!

「みゃあああ……!」

イカスミはその猫の技を駆使しセルリアンを弱らせていく。

フルルは一心不乱にビンタしてセルリアンを少しずつ削っていった。

「……クソッ!」

でも正直キツい。

AYPが僕達を弱体化させている気がする。疲れてきた。

「……今ダ」

「うっ……わっ、やめて!」

背中のセルリアンがフルルに巻きついた。

「邪魔者ノ排除は簡単ジャナイナ」

フルルが砂浜に投げ出された。

「うっ……あっ……」

(フルル!無茶は……)

「鳴クンジャナイ、泣クンダヨ、オ前ハ。」

(!?)

僕も……投げ出された。

(……フルル、ごめん……。)

「いいの……フルルこそ……投げキッス、役に立たなくて……。」

(そんなことない……充分だよ……)

「……ありがとう」

「コンナ状態デリア充トハ、確カニイカスミノ言ウ通リ……。……アレ、イカスミハ……」


「お前の後ろ♪」


「!」

イカスミはAYPの後ろにいた。

「オ前……」

「動くな」

サンドスターが溢れて輝く爪をAYPに向け、瞳を光らせる。

AYPはその恐ろしさに止まった。

「……楽シクナイゲームダナ」

「逆に勝つって分かっていたら楽しくないんじゃね?」ニヤッ

「マタ……オ前ハソウヤッテ……私ハ……私ハ……」

「随分怒っているなぁ?でも残念、僕は……」


「……パークヲボロボロニシテミセル!」「……あんかけを取り戻すに決まってるじゃん?」


AYPとイカスミの声が重なる。

その刹那、AYPの背中のセルリアンが伸びる。

「よっ」

イカスミはそのセルリアンを爪ではじき返す。

「なーんか調子出てきたぜ~?」ニヤニヤ

「ソレハ私モダヨ。絶対ニ、全テ、粉々ニスル。」

赤い瞳も光った。

ただひたすら、セルリアンと爪が叩き合いを繰り返す。

「フルル……フルルもっ」

(フルルは1番傷ついてるから無茶しないで!)

「でも……」


(僕……フルルがいなくなったら……悲しいから……どうせなら一緒に死のう?)


「……うん、もしこれでダメだったら……ね。でもイカスミが強くなり始めた。」

(え?)

……確かに、イカスミが勝つ雰囲気……。

AYPが辛そうに、必死にセルリアンを動かす。

「オ前ラハ、クッ……ココデ……グゥッ……終ワル……ハズ……!」

「僕が終わるとでも?」

「何デッ……」

「あぁ~いいねぇ~。やっぱり不幸って。」ニヤニヤ

もしかしてイカスミは……悪い奴の不幸が好きなのか……?

「死……ヌガヨイ……サンドスター・ロウハ作レルンダヨ!」

セルリアンが加速する。

でもイカスミはそれを避け続ける。


「……なぁ」


「ウルサイッ!黙レ!」

「黙るのはお前だよ!フレンズの話を……


……聞けぇぇぇぇぇ!」


セルリアンと爪が激しくぶつかり合い、目の前が光で真っ白になった。

「(……!)」

僕とフルルは目を瞑った。


……。


「……エ?」

その一言に反応して目を開けると……

イカスミはAYPを抱いていた。

「……邪魔ダ!」

「よく聞け……確かに3次元って辛いよな……僕も分かるよ……」

「アリキタリナ説得ダナ……?」

「お前言葉の意味分かんねーの?フレンズの話を最後まで聞けって……大体お前はな。自分勝手すぎるよ。」

「後悔モスル……」

「うん……ホンット危ない。ヤバい奴。」

「……!フザケ!」

「でも、辛いんだよな?」

「……。」


「ここは娯楽なんだから壊したら意味がない。だって娯楽がなきゃパークじゃなくてお前が壊れるだろう?」


「……。」

あれ……だんだん黄色がかって……

「そもそもジャパリパークはヒト共の娯楽だったんだからさぁ……。」

「……ジャパリ、パーク……。」

「そ、ジャパリパーク。いつだって会いに来いよ?」

「……いツだッテ……!」


「……すんなり聞き入れてくれて嬉しいな、ご主人」


「……うぅ……!」

AYPから涙が溢れてくる。周りの黒は虹色へと変わり、セルリアンも消滅した。

近くのセルリアンも消滅したから、恐らくパーク全体のセルリアンも消滅しただろう。

「だかれてるト暑いナ……

いや、温かいんだこれハ……

すまなかった……

きらいになって……」

色も戻ってきた。


「……こういうの、はっぴーえんどって言うんだよね。」

(うん!めでたしめでたし!)

「わ~い!ぎゅ~!」

(うわ!)

「ごめん、嬉しくて……」

(いやいいよ、遠慮なく)

「……うん♪」


「あら、なんか……終わってるわね……」

「もしかしたらと思いかいようちほーに来たら……。ま、良かったぜ!」

「そうね!」

「でも場違いじゃないですか?」

「そうだな。このままみずべちほーに帰るか。」

「そうしましょう!」

「4色ほのぼなーず……ぐへへ……」タラー

「帰りまーすよー!」

「はっ、すみません!」


「……ってか今さりげなくプロポーズした?」

「おい!何でバレた!」

「そりゃバレるわな!え?バカなの?」

「お前の方がバカだ。ご主人。……なんか『ご主人』って響き良いな。」

「……フッ」

「……?」


「何それ」ニコッ






「はぁ~。じゃぱりまん美味し~。」

どうせなら日が昇る瞬間を見たい、そんなフルルの提案で夜ふかし中。

あんイカは疲れて寝てるけどね。昇る瞬間になったら起こすやくそく。でもフルルはたっぷり休んだから。

「そろそろじゃないかな~?明るくなってきて~……。」

(本当!?)

「あんかけ、イカスミ、起きて~。」

「グエグエ~!」

「……んーまだ眠い……あれ……」

「くわぁ……んー?」


ちょうど夜明けがやってきた。


「すごい……すごい綺麗!」

「本当だな!」

輝く太陽が……僕達を照らす。

「綺麗~。」

(フルルの方がね?)

「あ~やっぱり言われると思った~。」

「……はぁ、寝た気がしない」

「そりゃお前めっちゃ暴れ回ってたもんな?」

「んー自業自得かぁ~……。」



……僕達は仲良しだ。


中でも僕とフルルはたくさん仲良し。

だから1つの疑問を持っている。

フルルは『うん』と言ってくれた。

でもみんなの意見も聞きたいんだ。


全員が『うん』と言ってくれることを願って訊こう。



桃色に紫色ってあうよね



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