黒巫女の質問と疑問


「ああ、違反咎めに声かけたんじゃねえからな。調子はどうだってのを訊きたいのさ」


「別に」


「ふふ、無理すんなよ。痛ぇだろ? あのクソったれの話ではイハナサのひとつ、血濡ノ荊棘いばらから持って来た荊棘いばらがおめえの肉を内側から破ってんだとよ。そこまでするかぁ、普通? よほど深い恨みか、あのクソの頭が本格的におかしいかどっちだい?」


「どちらもある。今まで殺してきた者の数など島国ここの戦士らの比ではない。そして、アレは頭がおかしい、というよりなに言っているのかわけがわからぬ」


「そうかい。ま、わっちもわかんねえんだけどな。けどよ、ひとつ疑問が浮かんだんでそれだけ答えてくれや」


「なにか」


「あの野郎、いったいなんなんだい?」


 セネミスの問い。あの野郎、あの神を自称した男のことを訝っているのだ。当然といえば当然。そもそもひとがイハナサにおりてあがってこられるわけがない。血濡ノ荊棘いばら、などというものを手に入れられる筈がないのだ。


 しかし、セネミスのことだ。疑わしい気持ち、訝しむ要素はひとつだけではない。


 呪詛などというものを扱っているのだ。それだけ黒き者、闇につかっている者、普通ではない者への疑心は相当なものである筈。だからこその「なんなんだ」だ。


 突っ込んでは訊かない。そこら辺は闇に通ずる者がつくる当然の安全柵。へたなことを訊いて奇異なることが起こってはならない。それをわかっている。


 サイは答えようか迷った。この場にはウッペの者もいる。それなのに、実は……というアレを言うのは躊躇われる。だいたい神などと空想がすぎる。頭の異常を疑われてしまうってか確実に頭おかしい発言だ。思考のあれこれが異次元にあるくらい。


「……気になるのか?」


「無垢を呪殺しろ。こんな依頼を持ち込むようなやつだ。まともじゃねえのはわかる。だが、アレは人間じゃねえってそんなバカげた思考が頭にこびりついて取れない」


「……。そうだ。アレは人間ではない。ただ、さして残念でもないがナニカは知れぬ」


「……。ふーん、そうかい」


 サイの答でおおよそ満足したのかセネミスは微妙な沈黙をはさみこそしたが以上につつかなかった。サイがわざと焦らして情報開示を渋っているわけではない、とわかってくれたようだ。完全には納得していないにしろ黒巫女は話題を変える。


「案外早く合流できたな」


「ああ、セツキの勘に感謝だ」


「そうだな。ただ、こっからはきついぜ」


「すでにこの様だ。わかっている」


「あっそ。まったく。脅し甲斐のないやつだな、おめえ。もっと怖がれよ。つまんねー」


「つまらなくて結構だ。他に用か?」


「いんや。また、様子を訊くぜ。じゃあな」


 何度目かのブツっがしてセネミスの声が消える。露営地にいるウッペの衆はもう呆けるのも通り越している。そんな中で唯一冷静な男が動いた。


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