要らんところに喰いつかないで?
「はじめまして、ココリエ王子。わたくし、チェレイレと申します。シレンピ・ポウ王オッタリトの妻です。後ろにいるのはわたくしの息子、デオレドです」
「あ、はい。ココリエです」
目を攻撃するチェレイレ王妃の後ろにいるデオレド王子はココリエを見て鼻で笑った。
……ような気がするが、確証がないので指摘しない。一応は客人だし……。
「おい、今誰を笑った?」
と、思っていたのに、容赦なく喰いつくのがいたのを忘れていた。部屋の隅でセツキが胃痛を覚えたような顔。ファバルの顔も気のせいでなければひきつっている。
もちろん、ココリエも顔面蒼白だ。なぜだろう、サイが来てからというもの寿命が縮みっ放しな気がしてならん。ココリエを笑ったデオレドをすかさず咎めたサイに青年が不快そうな目を向けかけたが、サイを見て、その美貌と美体に目を見開いた。
いかにも傲慢そうで高慢ちきなふうに見えるデオレドだが、相手が女、それも絶世の美女だとわかると、見る目を変えた。緩んだ顔でサイの体や顔をじろじろ舐めるように見ている。なるほど、ナフィツが言っていた好色王子というのは本当らしい。
と、現実逃避しかけたココリエだが、違うだろアホ、と自分に心中で突っ込んで客四人に絶対見えないようサイに合図。受け取ったサイは「なにか?」という瞳。
サイがこちらに注意を向けたのでココリエは机の陰で木簡にさらさらと簡単に指示。
「気にするな。しばしの我慢だ」と、書いたのでサイは疑問符。普段、セツキからココリエに礼を払え、と散々いやになるほど、いやだボケクソ喰らえと言ってもしつこく叱ってくるのでデオレドのこの態度を許容するのは違わないか? と思っているのだ。
その敬う心をどうして普段には持たないのかとっても不思議だが、まあ、よしとして追加の指示を書く。「アレはアレの本質なのだ。逆撫でしたら面倒だ」と書いて、サイが早速次の暴言を吐きかかったのを見抜いて釘を刺す。「少し黙っていてくれ」と。
サイは不服そうだったが、一応上司からの命令と受け取ってくれたようで黙った。
先ほどのサイ。命じなければおそらく「アホということか?」とか「そんなゴミは自然界の摂理に従って地に還った方がよくはないか?」とか言いだしそうだった。
「母上、ご覧くださいアレを。あのような上物、またとないでしょう。ぜひ欲しい」
「そうね、デオレド。それにあの瞳の色……あなたは、あなたが噂の傭兵かしら?」
「……」
「どうかして? 委縮する気持ちは理解しますわ。ですが……答えるのは礼儀では?」
「目にも耳にもうるさく不快である。己は私になんら関係ないよって答える義務はない」
詰めが甘かった。サイは結構短気だがそれでも聡明な娘だ。あまりそう見えないし、そのように扱われないし、先立つ無礼が全部ぶっ壊すので聡明説は立ち消える。
しかし、気持ちいいくらいの暴言だ。これくらい言えたらそら気持ちいいだろうな~。
しかし、今だけは遠慮してほしかった。
ウッペで責任ある立場の者たちが揃って青くなるがサイは知らんぷりだ。デオレドにじろじろされて不躾に噂の傭兵か、と問われる。気持ちのいいものでないのはわかってあげるから今すぐ言葉を撤回してほしい。
「まあ……」
だが、意外やチェレイレ王妃は怒る素振りも見せず息子に倣うようにサイをじろじろと眺めまわしはじめた。サイの眉が不愉快そうに跳ねる。ああ、次が来そう。
「素晴らしい気の強さですわ、サイさん」
「名乗った覚えはない」
「あなたの勇名は聞き及んでいますもの」
「呼んでよい、とした覚えはさらにない」
「ふふ、身分なしの身でそのような口は利かない方が身の為ですわよ? でなければ」
「ふむ。それは自己防衛に己を消せ、ということでよいのか? ……大歓迎だ」
ああ、どうしてこうなるの? と誰に質問すればよいのでしょうか? と、部屋にいるウッペの男三人心の中で頭を抱えてしまった。結局口論になっている。
……いや、ここはまだ手をだしていないサイを褒めるべきか? いつもだったら、ケンゴクなどならとうに手足が唸っているし、負傷者がでているところだ。
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