事情説明


「どうも、一杯喰わされたようで。サイの備えがなかったら俺たちはあそこで全員死んでやした。近衛のやつらはおそらく別々の道でここを目指している筈です。そろそろ着く頃合いかと思いやすんで、武装して迎えにいってやってもらえやせんか?」


「なるほど。それで、その備えていたというサイはどう……しんがりを、ですか?」


「へえ。あいつが大部分の足を止めてくれてなかったらと思うとゾッとしますぜ」


 みなまで訊ねることなく答を見つけたセツキにケンゴクは改めてルィルシエがサイを世話役に化けさせて護衛役に選んでくれていてよかったとばかり、評した。


 そう。サイがあの大人数を足止めしてくれていなかったら今頃、近衛たちやケンゴクは死んでいたに違いない。


 忍たちには確実に追いつかれた筈だ。


 兵たちも身軽な足軽ばかりだった。


 サイがしんがりでなかったら、そしてなにより、サイがルィルシエに御守りとなる、自身の携帯端末を渡して素晴らしい機能を説明していなかったらどうなっていたか。


 ――ヤバい。血祭の絵しか思い浮かばん。


「では、今最もまずいのはサイですね」


 セツキの確認にケンゴクはしっかりと頷く。わかり切ったことだったがきちんと報告せねばならない。


「ええ。あいつがいくら強くてもあの人数を相手にしてはどうやったって無理がありやすし、なによりあいつの得意は速力にありやす。その動と速度で翻弄して仕留める。どう考えても足止め役というか、一対多数、しかも忍が相手じゃ乗倍的に危ねっすよ」


「……。わかりました。私は聖上にこのことを報せにいきます。ルィルシエ様、それにケンゴクも、あなたたちは今すぐに治療を受けて休みなさい。近衛たちを迎えにいかせる隊編成は申し訳ありませんが、ココリエ様、お任せしてもよろしいでしょうか」


「ああ、ちょうどよくひとも集まっているしな。セツキ、ルィルを」


「もちろん。ルィルシエ様をこれ以上裸足で歩かせる真似はしません。しかし……」


 簡単に状況を把握したセツキは各々に指示をだしてルィルシエを片腕で抱え、ケンゴクに肩を貸し、足に力が入らない部下を支えてやりながらしみじみ呟いた。


 それはサイへの評価というか、純粋な畏怖をこめた感想を零したものだった。


「不測を予測したことといい、的確に己以外を安全に逃がせるようにしたことといい、本当に自己犠牲的な優しさ、そして愛を持ち、気を張って備える娘ですね、サイは」


「いいところなのだが、とんだ悪癖だ」


「ええ。己の無理無茶苦茶無謀でまわりがどれほどに心をすられるかわかっていない。こどものように無知です」


 セツキとココリエが簡単にサイという娘について言葉を交わし、それぞれに動く。


 ココリエは方々に散りつつもウッペを目指して逃げている筈の近衛たち五人を捜索し、保護する部隊編成を担当。


 セツキは負傷しているふたりを城のかかりつけ薬師たるハチの下に連れていき、一件をウッペの王、ファバルに報告しにいったのだった。……この時、ルィルシエの爆音ブザーで居眠りから叩き起こされたファバルがセツキから報告の前に叱られたのは……ね?


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