悪魔の素朴な疑問
「どうした、ココリエ」
「は、へ?」
「顔、発火しそうだ」
サイが指摘した通り、ココリエは脳内で整理したことを思考し直して真っ赤になってしまっていた。顔もそうなのだが、全身から火がでるほど、むちゃんこ恥ずかしい。
リィクはサイを可愛がれ、と言った。つまりそれってもしかしてサイを抱けってことですか? とココリエは自問してみる。が、自答する気にはなれない。んなことしようものなら恥ずかしさのあまり爆死する自信がある。
真っ赤な顔でドキドキというかドクドク鳴っている心臓を落ち着けようとしていると額にひんやりと気持ちよいものが触れた。ココリエが視線をあげる、とサイの美貌が見えた。女の表情にはなにもないが、瞳には気遣わしげな色がある。
「大丈夫か」
「あ、う……」
「? 口が利けない病か」
「いや、そうじゃ、なくて」
「では、なにか」
「サイ、どうしてそなた、そんな平然と?」
なんでサイはこんなに平然としていられるのか、ココリエは訝った。かなり衝撃的なことを言われたのに、なぜ?
それとも、それすらもサイにとっては瑣末、なのだろうか? と、いうことはもしかして男女の営みほにゃららを知っている? 平然としているのは非処女だから?
「猛獣であれ、脳天心臓は共通急所だ」
「……はえ?」
「? 猛獣の心配ではないのか」
「いえ、あの、全然違います」
「頭打ったか?」
「むしろ、それは余が訊きたい」
「イミフ」
意味不明はサイの方だ。絶対にそうだ。世界中の誰もがみんな認めてくれる。満場一致でココリエの方に賛意を示してくれる。サイのとぼけた発言にココリエは思わず脱力。だが、おボケ様のお陰で変な緊張はほどけた。
でも、この様子ではサイの非処女説はかなり薄い。薄らぼけているっていうかほぼ透明な説。このすさまじいボケっぷりを除いて考えてもすげえ濃厚な線で乙女だ。
バレたら余裕で殺されそうなことを考えているココリエは現状を把握しようとする。
しかし、どう考えてみても意味不明。理解不能。でも思考終了できない。ああ、どうしたらいいのでしょうか?
ココリエが思考の罠にはまっているとサイがじっと見つめてきた。ココリエの喉がついごくっと鳴る。絶世の美女、傾国の美姫とすらしてもいいサイ。彼女に見つめられて、しかも絶対の上級位貴族、帝に抱け、と言われたばっかりでそういうイケナイ妄想をしない方がおかしい。
まあ、サイの方はまったく意識していないのだろうが。罪づくりな娘である。
「不可解なのだが」
「え、はい、なにが」
「私を味わう、というのはいったいなにか。まさか、人肉食に興味があって、か?」
「……。安心してくれ。そうじゃない。というか、女ならそっちよりも違う想像が先に来るんじゃないか、普通」
「私を普通の尺ではかるな。では、私の味だとか、可愛がる、というのはなにか」
結局そこに戻るというね。ココリエの頭で誰かが突っ込んだ。ちゃんと説明しない限りサイの疑問は無限に廻る。だが、きちんと説明しても理解してくれるか怪しい上、万が一理解してもその時、ココリエに果たして息があるか、は甚だ疑問である。
正直に話した時点で殺されそうだ。露骨な言葉で帝は青姦と言ったが、それすら理解していないようだし、説明だけで陽が暮れそうだ。が、かといってなにをしたらいいかわからないで動くのは危険極まる。猛獣がいる、というのも不安要素だ。
サイだったら、素手でも狩れそうだが、ココリエはそんな技量ないし、実力ないし、挑んでみようという度胸もない。ないない尽くしだ。ああ、だが、ホント困った。
「あおかん、とは? 蜜柑の親戚か?」
「ぶふっっ」
しばらく黙っていたかと思ったらサイがとんでもないことを訊いてきなさった。
帝リィクが言った下品な単語がサイの口を衝いてしまったことにココリエはまた赤面ついでに噴出。サイは直前で躱したが、それでも汚い、と言いだしそうな非難の瞳。
彼女に悪気がないだけ性質が悪い。青姦を蜜柑の仲間とは……。かなりどうかと思う誤認識だ。漢字にまだ慣れがなく、音が似ているのでそう思ったのかもしれないが、がっつり違うのでそこだけでも訂正しておこう。と、思ったはいいが、どうやって言えば生きていられるかな?
だって、帝がちょうどいい立地みたいなことを言ってくださったせいで、しかも繫げてサイを味わうのにいい場所的なことを言った。青姦イコールそういうことと説明しては場合もクソもなくサイの緒とココリエの寿命が切れそう。
「なにか、いったい」
「あの、すみません。その単語、今後使わないと誓ってください。お願いします」
「イミフ」
とりあえずココリエはサイにお願いしておいた。サイのような少女が青姦なんて下品すぎる。男であれば多少はそういう話題もあろうが、女性がしていい話題ではない。
サイはココリエの必死お願い、もういっそ土下座しそうな勢いにイミフ、と言って以上を追求しなかった。
多分、その単語を忘れ去ることはないだろうが、もう話題にあげることはない、と信じたい。セツキとかだったら簡単に手っ取り早くそういう猥褻本を渡して勝手に勉強しろ、しそうだが、ココリエはそんなの持っていないし、そもそも教育したくない。
サイにはいつまでも綺麗でいてほしい。見た目が、とかではなく、穢れを知らない心でいてほしいのだ。男女のそれが汚らわしいとかそんなことは思っていない。ただ、神聖なことである、とココリエはファバルにそう言われ続け、教わってきた。
だから、サイにも神聖なことだ、と思ってほしい気持ちがある。みだりにしていいことではないのだと。この戦国でお清を保つのは難しいことかもしれないが、いつかサイがそうしたいと思えるまでは知らないでいてほしい、と強く思ったし、願った。
だが、それ以上に強く思ったことがあった。
おそらく、命の危機がすんごく身近にあるのと話題にあがったせいだろうが……。
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