浮遊感のち……むにゅ
ふわっ、と浮遊感がココリエを襲い、胃が浮くような不快感を少しだけ味わったあとココリエは背を打ちつけた。謁見の間は黒曜石のような石床だった。だが、そこに打ちつけたにしては衝撃が薄くて軽い。
ちかちかする目。またたかせてもなかなか順応してくれない目にココリエが苛立っているとその隣になにかが落ちてきた。なんだろう、と咄嗟に手を伸ばして触れる。
「ん?」
むにゅ、とした。とても柔らかい感触。今まで触れたことがないようなものが手に触れてココリエは首を傾げて目をこらす。すると、少しずつ視界が明瞭になってココリエは触れているものを見て固まってしまった。
「ぅ、んぁ……」
悩ましい声がした。非常に色っぽい声。ココリエは固まったまま動けない。
ココリエの隣にはひとがいた。見たことのあるひとが。とても、とても見覚えのありまくるひとが倒れている。黄金の色艶を持つ黒髪。左目の眼帯。白肌。……サイ。
隣にサイがいるのはとりあえずいいとする。ここでまずヤバいのはココリエの右手が触っているもの。女戦士の豊かな胸、ふたつ実っている房のうち、ひとつをココリエのけしからん手が掴んでいた。
ココリエの喉が人間的にだしちゃいけない悲鳴を吐きかけたが、なんとか飲み込む。ここで声をあげてはサイを起こしてしまう。そして、現状を見られたら殺される。
ココリエは冷や汗を流しながら真っ青な顔でサイの胸を掴んでいる手を開いてそろーっと、サイから離す。と、ココリエの手がココリエのそばへ無事帰還すると同時にサイの右目が開く。美しい銀色の瞳はしばらく宙空を彷徨っていたが、やがて固定。
「……ココリエ?」
「いえ、あの、無罪になりたい」
「は?」
つい、動揺するあまり言葉がおかしくなってしまった。が、ココリエはなんとかサイになんでもない、と合図。サイは訝っているようでもひとまず納得してくれた。
体を起こしたサイは不思議そうな瞳。ココリエの目はまだ完全に順応してくれないが、どうやらサイはそこら辺も規格外な様子。現在地について感想を寄越してくれた。
「……海?」
「へ? え? う、海!?」
サイの言葉を受けてココリエは立ちあがろうとしたがなにかが足を取る。その感触、記憶が正しければ砂、のような触り心地。埋まる感覚を味わいながらなんとか立ったココリエの隣でサイがなんの苦もなく立ちあがった。
……。なんだろう、この異常に悲しい、虚しい気持ちは? とか思いながらココリエがようやく順応してきた目で辺りを見渡す。そして、思わずぽかんとした。
そこに広がっていた光景に思わず口が開いて閉まらなくなった、と言った方がより正確かもしれない。
ざざぁん、ざざざん、と打ち寄せる波。からりと晴れた空には雲が浮かんでいる。その空と混ざってひとつになってしまいそうな美しい藍玉の海が広がっていた。
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