約束

 あれは、私が高校生の時…。 


 私は、桜が満開に咲き誇った頃に、学園の奥に存在する小さな祠に向かった。

 この時期に、『願いを叶えてくれる魔女が現れる』という噂が流れたからだ。

 叶えて欲しい願いなんて、正直特に思いつかなかったけれど、『魔女に逢いたい』という好奇心には勝てなかったから…。

 しかし、魔女が出現する祠の場所までは不明。

 どこの学校にも存在しそうな、七不思議のひとつでしかないその噂。

 でも、私には思い当たる場所があった。

 その場所は、学園の構内図には記載されていないので、一部の人間しか知らない。

 1本の大樹を囲むように彼岸花が咲く場所。

 何故なら、季節に関係なく彼岸花が開花していて、他の生徒達は皆気味悪がっているからだ。

 どうして、彼岸花が常に咲いているのか。

 それは、この学校で飼育されている動物達の亡骸が此処に土葬されているから。

 …なんて言われている。

 まぁ、そんな場所に好んで行きたがる人なんてなかなか居ない。


 誰も立ち寄る人はいない。

 そんな祠へ続く道の鳥居には、2つの人影があった。

 その2人は、今年同じクラスに編入してきた女子生徒。

 ふんわりボブが古井家櫻ふるいけ さくら

 腰まである黒髪ストレートが古井家綾目あやめ

 2人は双子らしいんだけど、全然似ていないから『腹違いなんじゃないか』なんて噂も流れている。

 とても浮いている2人の少女。

 私程じゃないけれど…まるで今は亡き先輩達を観ている様だった。

 誰とも必要以上に距離を近付けない。

 …けれど、容姿が良いからか狙ってる連中は男女問わずいるみたいだけれど。

 今、私の目的は『魔女』に会う事。

 2人のどちらかが…いや。

 もしかしたら、2人とも『魔女』なのだろうか。

 不思議な能力ちからがある様な気はしているけど…。

 編入してから、何度か席替えを行なっているけど、必ず2人は対の座席になるし。


 私が鳥居の前まで行くと、2人が鳥居を挟む様に立っていた。

「珍しいお客さんだね。」

「貴女は、どちらに用かしら?」

「多分、綾目にだと思うよ?」

「あら。殺して欲しい人間でもいるの?」

「もう。そんないきなり聞いたらダメでしょ。」


「「……で?望みはなぁに?」」


「…望み?」

 自分に問いかける様に呟けば、櫻が不思議そうに首を傾げた。

「望みがあったから、わざわざこんな場所まで来たんでしょ?」

「どんなことでもいいの?」

「もちろん!どんな望みでも大丈夫だよ。」

 花が咲いたかの様にニコリと笑って櫻が答える。


「私の願いは……」


 2人の手をそれぞれ握り、私は“魔女”に願いを伝えた。

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