第7話;ミシェル・ブラウニー男爵令嬢の誕生

王宮執務室に王と宰相、そして王都ギルド長のダンがいた。


「暗殺だと!」

王が驚いている

「警備を厳重にしておいて良かったです、あの力を恐れる者は出て来るとは思いましたが」

宰相が溜め息を吐く


「しばらく姿を隠した方がよろしいかもしれません、今は私の元におりますので大丈夫ですが、妻も元S級冒険者で、息子もA級になりましたし、魔導師が屋敷に障壁を張ってくれましたので、でもずっとと言うわけにはいきません」


「別人になってはいかがでしょう?」

そう言ったのは宰相だった。

「別人?」

「ちょうど第二王子の表の護衛を探しておりました。貴族令嬢として学園で護衛をさせながら、匿うのはどうでしょう?」

「貴族令嬢か・・・しかし架空のはすぐばれると思うが?」


「人格者のブラウニー男爵に頼んで、庶民にまぎれていた妾の子を引き取ったことにしてもらえばいかがでしょう?」

「ブラウニー男爵の評判が落ちるのでは?彼は不実なことをしないので有名だぞ」

「長年探していたことにすれば?奥方を無くされて20年です、18年前、奥様の死後関係を持った女性を妻に迎えようとしていたが、女性が身分を理由に身を引いて行方不明になっていた、女性は亡くなっていたが、娘が居た・・・なんてのはどうでしょう?」


「・・・・宰相・・・・ロマンチストだなおぬし・・・」




後日ブラウニー男爵が王宮に呼ばれると事の説明が王からされた。

「喜んでお引き受けいたしましょう、国の英雄です、大事に教育いたしましょう」

「そなたの評判に傷がつくかもしれないが、協力をお願いしたい、それに王子の暗殺の首謀者が学園にいるらしいが、中々正体を掴めないでいる、彼女の実力は本物だ、そうだ名前も変えなければ・・・・・そうだな・・・”ミシェル”はどうだ?」


「!王よ・・その名は・・・行方不明の王女の・・・」

「良いではないか、良い名だろう?」


「”ミシェル”と声を掛けたら、”はい伯父様”って呼んでもらいたいな~」


「・・・・王様・・・・それが目的ですか・・・・」

宰相が呆れる、王にそう言う返事はしないだろうと思うのであった。


男爵は思わず笑った。






ダンの屋敷では指名依頼の話をダンがリリアナに言う

「引き受けてもらいたい」

「・・・学園?」

「ああ、学園の寮から通いながらの・・・」

「受ける受ける!”学園”!良い響き~」

ほろっとリリアナの目から涙が

「夢だったのよね、制服を着て近しい年齢の女友達とおゃべりして、笑い合うの」


(この世界で前世を思い出して、自分が孤児だったことで一番寂しかったのが、学校に行けない事だった、それもあり学校もどきを孤児院に作ったんだけど、自分は通ってないからなぁ・・・なんか、うれしい)


「喜んでるとこ申し訳ないが、あくまで護衛だぞ、それに貴族令嬢らしくなるため、男爵家で指導を受けることになる、行儀やダンスや言葉使いなど、大変だぞ」


「うーん多分大丈夫!演技得意~・・・・ですわ」

「・・・・大丈夫か?」


死亡者リスト、リリアナはずっと懐に入れて持ち歩いている、たまに開いて名前を見て涙している

そのリリアナが、笑い、目を輝かしているのを見て、ほっとするダンだった。




正式に指名依頼として受けたリリアナはブラウニー男爵の屋敷に馬車で向かう

わざと王都の外から乗って、門番に目撃してもらい、男爵に引き取られる娘を演じた


(着てみたかったドレス・・・キツイわ~)


髪は桃色金髪(ピンクゴールド)のカツラを魔法で固定、目の色を魔法で緑色に変えた。


(鏡見たけど・・・似合ってるかも私)

とナルになっていたのは許してほしい、ゲームのヒロインみたいと喜んでしまったのは・・・


ブラウニー男爵に着くと、屋敷の人たちは温かく迎えてくれた、特に男爵は事情を知っているためか、本当の父親と思ってくれ、テロリストから国を救ってくれて感謝に絶えないと二人きりの時にだが、涙を浮かべて来た・・・


(いい人だな・・・・ダンに聞いてたけど本当に良い人)





ブラウニー男爵家で事情を知っているのは、男爵とその執事のみで、男爵の最愛の妻の忘れ形見である、長男とメイドたちは知らされていない。


顔合わせのために、呼ばれて帰って来た兄、ジーンは父が紹介する妹に厳しい顔を向ける。

「お兄様。どうぞよろしくお願いします。」

執事に軽く教わった挨拶で、兄に挨拶をした。


王宮で文官として働いている兄は、厳しい表情のまま

「私には構うな」


そう言って王宮に帰っていった。

「すまないね、殆ど住み込みで働いているので、会うことは無いだろうから、あれの失礼を許してくれ」

そう男爵が言う。


母を溺愛していたと思っていた父が、母の死後しばらくして寵愛を向けた相手が居たことにショックを受けているらしかった。


(かわいいじゃん!大の大人が不貞を働いていたわけでもないのに、父親にショックって・・・・)


兄もいい人認定したリリアナだった。


男爵も執事も優しかったが、教育係はそうは行かなかった。

特にマナーの先生は、普通に鞭が飛んでくる、終わったら治癒魔法で赤くなった手は治してくれるが、結構・・・・きつかったが楽しかった!


湯浴みをして、ナイトドレスに着替えてベットにうつぶせにダイブ・・・・

「きついわ~筋肉痛半端無い」

剣を振るう筋肉と、姿勢やダンスの筋肉が違うのだろう、かなりの筋肉痛になっていた

「ヒールで治すとせっかくの筋肉が元に戻るから使えないしな・・・」

そう思いながら、いつの間にか寝てしまった。


やさしい夢を見た気がする・・・・幸せだった、皆が笑顔の・・・・



護衛対象との打ち合わせが行われた、しかしそこに対象の第二王子は居なかった。

「あれは、実直でな・・・顔に直ぐ出るんじゃ、王太子にならなくてよかったわい」

王の使いと言うお爺ちゃんがそう言う、王子の教育係で、偉いらしいが複雑で理解不能


兎に角、王の親戚らしい、


「解りました、気が付かれない様に護衛します。」

「紹介しよう王子の取り巻きの宰相閣下の次男のルードヴッヒと婚約者のマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢、その護衛兼取り巻きのギール・グランデール伯爵令息、この3人のみ事情は話してある、3人とも優秀な連中じゃ協力してくれ。」


「よろしくお願いします」

3人は、リリアナを訝しげに見ることも無く、挨拶をした。


「狙われているのは王子だけですか?」

「公爵令嬢もじゃ、影の護衛もついておるが、それだけではカバーしきれない所もあると思う、よろしく頼む、英雄よ・・・」

「・・・その英雄っていうの辞めてもらえません?恥ずかしいです」


「いえ、国を救っていただいたのです、感謝の称号ですわ」

マリアンヌがそう言ううと、

ルードヴッヒもギールも頷いていた。


護衛時の連絡は主にルードヴッヒを仲介して行うことになり、連絡方法も摺合せを行なった。



待ちに待った編入の日、一応試験を受けていて、満点だったことが知れ渡っていた。





ーーーー男爵家リリアナの指導員達と男爵の会話----


「ミシェルはどうだね?まともに学校には行っていないからね。」

「それは本当ですか?独学であれだけの知識、凄いですねあの年で」

座学の教師が言う

「飲み込みの速さから行って経験があるとしか思えないのですが」

「本当に、運動神経が良いだけではすまないレベルですわ、あの上達ぶりは」

姿勢とマナー、そしてダンスの教師が言う

「・・・そ、それは凄いな・・・本はよく読んでたとは聞いているが・・・」

「優秀な方ですな、まれにみる逸材ですぞ!王家に嫁いでも、問題無いですぞ」

教師たちが皆頷く。






「今日からこのクラスに編入してきたミシェル・ブラウニーさんです」

「皆様、よろしくお願いします。まだ貴族のしきたりや、学校のルールなど不慣れですのでご指導くださいませ。」

淑女の礼と満面の営業スマイルを振りまいた。

何人かの生徒はその笑顔に見惚れた。

その中の一人がブラウン第2王子だった。


王子とミシェルの目が合った。


!ドクン!


二人の鼓動が同時に鳴った。















お昼、食堂でマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢の取り巻きと

ブラウン第2王子の取り巻きとが集団でお昼を取っていた、そこにミシェルが現れ、


「ご一緒してもよろしいでしょうか?」


そう言うと、ちょっと顔を赤らめたブラウン第2王子が自分の横を、

マリアンヌと反対側を進める。


「ちょっとあなた!」

マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢の取り巻きが文句を言い出しそうだったが、

「良いのよ、エミル様」

「学園は身分は関係ない、友人は多い方が良いだろう?」

マリアンヌとブラウンに言われ黙るエミル、

侯爵令嬢としての気位が、たかが男爵令嬢の、最近まで庶民のミシェルが、王子の横に座る、どうしても許せなかった。


「すみません、皆さまと仲よくしたくて、何分魔力が多くて他の方々に怖がられていまして、王族や高位の方々ならそんなことは無いのではと・・・ずうずうしくて申し訳ありません。」


「良い、私が許す!お昼は?もう済まされたのかな?」

気遣う王子に少し戸惑う周りだった。

「いえ、お弁当を持ってきております。」


空間収納方からサンドイッチを出す、

「空間収納持ちとは凄な・・・」

キランと目を輝かす、取り巻き令息達


「寮の部屋に簡易キッチンが付いていたので助かりました。メイドは連れて来てないので」

「自分で作られたのか?」

「元庶民ですので、身の回りのことは自分で出来ますし、お父様も領地運営で忙しくて、私の事まで構うことが出来ないらしくて、でも引き取っていただけでもありがたいので、メイドはお願いしてませんの」


「美味しそうだな・・・」

「お1ついかがですか?」

「おう、是非戴こう」

「!王子!待って」

取り巻き令息が止めようとした、毒見も無しに食べたからだ

「・・・・美味しい・・・」


「王子、毒見も無しにむやみに口にするなど・・・」

「ああ、悪い悪い毒が入って居たら、食べ物から殺気が感じられるのだが、それが無かったからつい」


「毒など入れませんわ、皆様にはお近づきにお菓子を作って参りましたの、」

そう言って、籠一杯のクッキーをだした。

ニコニコ笑っているミシェルだったが、取り巻き達の言動を体全体で探っていた。











マリアンヌとルードヴッヒとギールと4人で定期連絡の為集まっていた、

「解りませんででした、クッキーの中に自白剤入れたんですがね」

「・・・・どうりで皆さん饒舌だったのね・・・ちょと引いた内容もあったのはそのせいなのね・・!」

「3人は食べませんでしたね、本音聞けるかと・・・」

「貴方が、何か仕掛けることは解っていて食べるわけがないでしょう・・・」

「さすが、ルードヴッヒ様」


「そうそ、マリアンヌ様の椅子に魔法陣が仕掛けられてしました。解除しときましたが、移転魔法らしかったですね、距離的に魔物の巣窟の山脈の何処かですかね」


「・・・・」


「マリアンヌ様でしたら、あの山脈の魔物など問題ないでしょう?」

「・・・え?まさかマリアンヌは令嬢だよそんな所に放り込まれたら・・・」


「問題ないですわ・・・」

「え?」

そう答えるマリアンヌ

「修行が足りませんねルードヴッヒ様、ね、ギール!」

「・・・剣術ではマリアンヌに勝ったこと無いなぁ・・・魔法はどうにか私の方が上だけど・・・」

遠い目をするギール

「近衛隊長と対等に戦える君に勝つって・・・」

「老師に、マリアンヌの護衛が、マリアンヌより弱い僕でいいのかと何度も聞いた、マリアンヌの次に強いからって言われた・・・」


「さて、これからも気を引き締めて行きましょう!」

ミシェルが言ううと皆に緊張が走った。






ブラウン第2王子の護衛の為、接触が増えて行った、王子の視線が熱くなっていく、

ミシェルも惹かれて行く自分の心を抑えようとしていた。


「どういうおつもりですの!ミシェルさん!ブラウン第2王子殿下はマリアンヌ様の婚約者ですのよ!」


いずれは言われると思った、取り巻き令嬢の叱責タイム


「・・・王子様には優しくして頂いて嬉しく思いますわ、マリアンヌ様にも気を使っていただいて・・・」

パーン!

頬が熱くなる・・・

よろけて倒れ込む(ふりをした)


「ずうずうしい!庶民が!気高いマリアンヌ様を傷つける事、ゆるしませんわ!」


そう言ううと取り巻き達は去って行った。


(いたぁ~定番だね~しかしどうしようか?この行為がマリアンヌさんを貶める行為だって、解ってないんだろな・・・)





困ったことに、私への嫌がらせが増えた、箱入り貴族令嬢のすることなど、たいしたこと無いのだが、ちょっとうざい、まぎれてマリアンヌ様への命に係わる物も含まれていた。

厄介なのはそれを私が体を張って庇おうとするとさらに王子が私を庇う。

王子の命の危険が・・・これはまずいと少しずつ、たわいも無い嫌がらせには報復をして辞めさせていた。


王子が私の手を取る

「ミシェル、何か辛いことはないかい?私に相談して、愛しい君が辛く悲しい顔をするのを見るのが辛い」

(最近接近が激しいな・・・・階段事件以来、前までこんなにアピールしてこなかったのに・・・しかし、誰だマリアンヌ様を突き落とそうとしたやつ!周りには取り巻きしかいなかったはずなのに・・・庇って落ちて魔法でクッションにしようと思ったら王子の取り巻きが下にいて受け止めるなんて・・・)


「・・・王子様!近いです!・・・顔近い!」

手をつなぐだけでは収まらず、王子が私を抱きしめる

「お・・・王子様?」

(今少し触れたよね・・・唇・・・・どきどきすんだけど!やばい何?)








ーーーーーーーーーーーーー

ブラウン王子は街道を駆ける

リリアナとの時間差は半日ほどある、夜も更けて来たがそのまま走り続けた。


夜が明け、日も高くなった頃、遠くで煙が見える

「?誰か居るのか?野営ならとっくに出発している時間だろうに・・・なんだ?」

煙にどんどん近づくと、男の姿が目に入った。


「あれは、ギルド長か?」

大規模魔物討伐依頼の時に会ったことのあるブラウン王子は、不思議に思って近づくと獣馬を止める


「あなたがいらっしゃいましたか」


「ギルド長、どうして此処に」


「誰かが・・・・いや、あなたが来るのを待っていました。」


「・・・!リリアナの居場所か?」


「彼女は自分の力に振り回されて混乱しております、力の制御も出来ておりません・・・私に探すなと命令されて森に消えました、私は探しに行けません、彼女をどうかお願いします。」


「リリアナ・・・しかし何処に」

「可能性ですが、此処から南西に300キロほど行ったところに洞窟があります、そこでリリアナは薬草を育てています、そこに行ったのでは?

あそこには野営できる場所と簡易的な住まいを作ってましたので」


地図を広げてギルド長は王子に場所を教える


「解った行ってみる」

「これを、魔物避けです。Bランク以上には効きませんが」

「いや、有難い、この辺は強い魔物は出ないから大丈夫だろう」


王子はお礼を言い南西に向かって獣馬を走らせる



(なんだろう、もうしばらく此処に居たほうが良い気がするな)


ギルド長は、消えかかっている薪に火を再度入れる.


王子は森を駆け抜ける、獣魔は優秀で障害物を避けながら走る、振り落とされないように魔法で獣魔にしがみつく王子、

どれくらい走っただろうか?空が赤くなってきた頃、ばっと開けた所に出た、見ると目の前には、岩場が続く。


「も少し北か?・・・気配は近い気がする」

いわばに沿って走ると、岩の間に木の扉が見える所に出た


「此処か?・・・・此処だな」

獣魔から降りると近くの木につなげる


扉を叩いてみる

「リリアナ?・・・・ミシェル?・・・」

返事は無い、扉は少し開いていたので、そっと開けて中に入る


洞窟はヒカリゴケだろうか、薄らと明るい

暫く歩くと少し開けた場所に出た、水の流れる音にさらにコケが光り輝いている。


「凄い!これは貴重な薬草か?」

棚になっている所に、薬草がびっしりと生えていた。


さらに奥から、コケの光とは違う明かりが漏れていた。


分厚い膜で仕切られた小部屋の様な横穴、そこを覗くとそまつなベットがあり、リリアナが横になっていた。


近づくと、泣いていたのだろう目が赤くなって眠っている姿が目に入った。


「リリアナ?」

そっと頬に手を触れると

「?王子様?・・・・え?あれ?此処は・・・そうか・・・私・・・化け物に・・・」

「リリアナ?迎えに来たよ」

「・・・殿下・・・あれ?普通だ・・・あれ?」

王子はリリアナの手を握る

そこには銀色の蔦の模様がある石が見えた

「我が王よ・・・私と結婚してくれ」

「え?」


リリアナは呆然と王子を見ていた。







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