第2話:この世界
5歳の時、前世の記憶が蘇った私(リリアナ)は
直ぐにこの世界のことを調べた。
私が居たトリスタン教の孤児院があるのは、世界の始祖王を輩出したと言われる
【聖クランデイール王国】
その王都を囲むようにある都市の一つ
【 西の都ベルゼア】
現在
先王が暗殺され、生まれて間もなかった一人娘の王女は行方不明。
現王は先王の宰相をしていた王妃以外で唯一の『王敬印(おうけいいん)』の持ち主だった王弟ジークフリートが立っている。
先王が死しても『王印(おういん)』の持ち主が見つからなかった為、仮の王として国を治めている。
王を暗殺したのは叔父に当たる公爵だった。王位を狙ったものだ。
『王印(おういん)』の無い王も過去にはいた。
『王印(おういん)』が現れないときの彼は王位継承権第4位
当時
1位;王の一人娘 当時0歳5ヶ月
2位;王弟ジークフリート宰相
3位;王弟ジークフリート宰相長男 当時2歳
4位;先王末の弟 グルディン公爵
(王弟ジークフリート宰相次男は 妊娠8ヶ月生まれたら王位継承権第4位)
本当は弟のジークフリート親子も殺すつもりで宰相宅にも刺客が放たれていたが
暗殺決行の日、急遽妻の実家に妻子と主だった家臣達と里帰りをしていた。
刺客達は情報が追いついていなかったため、留守番の門番と数人のメイドが居るだけの屋敷に潜入することとなった。護衛の者も数人しか居ず、屋敷に残っていた者は可愛そうに皆殺しだったと言う。
宰相宅を襲った暗殺者は捕まらなかった。
護衛を普段どおりに置いておかなかったことを、ジークフリート宰相は今でも後悔し続けている
妻の実家は将軍の家で防犯は王宮以上と言われている。もし刺客が放たれたとしても確実に防ぐことはできたであろう。
歴史の中で王の暗殺に成功したのは彼のみであった。
ゆえに、王を手にかけると<魔力石>の周りに黒い文様が現れることを誰も知らなかった。
そしてその石の周りから心臓にかけて激痛が走るのも・・・
グルディン公爵は激痛に耐えられず、のた打ち回っていて逃げ遅れたらしい。
手引きや手を貸した兵にも現れ、血も流れていないのに其処彼処でうめき声を上げて地に伏し苦しんでいる光景は、まるで地獄の様だったと言う。
神に選ばれた王を廃すことは重罪である、天罰が下ったのだと言われ、当然ながら世間からは大悪党の一味と蔑まれた。
殆どの者は処刑されたが、グルディン公爵は王城の地下牢に幽閉されている。
先々王の末の弟と言うことで死刑は免れたが、
夜な夜な激痛に悶える声と恨みの声が聞こえるらしい。
魔法は興味そそられるものだった。
魔法属性は人によって得意なものがあるらしい。
調べてもらったら私は『水属性』が得意だという。
合わせて、同系統の『氷魔法』が優秀で、
『光魔法』治癒系『土魔法』も次に優秀と言われた。
それに属性全て発動可能なのは世界でも数人しか居ないらしい。
孤児院は16歳で出て行かなくてはいけない。
それまでに手に職、奉公先等を見つける必要がある。
異世界に定番の「冒険者」
この世界にもあるので私はそこを目指したいと思った。
そこで問題となったのは
<殺生(せっしょう)>
魔物でも殺すと言うことに抵抗が無かったわけではない。
それでも、興味は尽きなかった。
孤児院の朝は早い。
早朝、孤児院の畑で皆で収穫。
朝市で大きい子が収穫したものを売りにいく。
朝市から帰ると皆で朝食、その後また畑仕事。
昼前はしばらく自由時間はあるが
昼食後は読み書き、算術、国の歴史と仕組みの勉強が3時間程。
その後内職で織物や手芸品を作り次の日の朝市で売る。
孤児院のシステムは先々王が制定したもので40年は経っており時代にそぐわなくなっていた。
物価も上がり国からの支援金ではやっていけないので、子供たちにも働いてもらわなければ子供たちも職員も生活できない。
それだけでなく、定員200人のところを230人も迎え入れてることが金欠の原因であった。
人口が増える都市、孤児も増えているが孤児院の建物や仕組みはそのまま、
建物の老朽化もあり、行き詰っていた。
「シスター、勉強の時間に冒険者ギルドで訓練する許可をください」
そう7歳になった私が言うとシスターは驚きを隠せないようだった
「空き時間にギルドを訪れていたのは知ってましたが、勉強時間にとは・・・」
「2年で孤児院で習うことはすべてマスターしました。10歳で冒険者になるために前もって修行したいのです。」
そうきっぱりと言い放つ。
年齢にそぐわない言動をするリリアナを訝しげに見るシスター。
真剣な眼差しに根負けしたのか、暫くして半ば諦めたようにシスターは口を開いた。
「は~・・・危ないことはしないと約束してください」
「はい!ありがとうございます!」
実は覚醒して直ぐに開き時間に冒険者ギルドを訪れていた。
当時は5歳といううこともあり、大人のそれも屈強な男や女は怪物に見えた。
だけどいざ接してみると変なやつもいたが皆、親切だった。
一番気にかけてくれたのがギルド長。
武骨な大きな腕には懐かしさがある。闇奴隷商から救い出してくれたのが
王都を囲むようにある都市、西の都冒険者ギルドのギルド長率いる冒険者達だった。
「今日も来たのか?リリアナ。飽きないな」
がしがしと頭を撫でてくるギルド長のバニッシュ。
毎日見学に来る私をを可愛がってくれていた。
不定期にバニッシュは希望者に訓練を施してやっている。
私はギルド地下にある訓練場に、何回か見学しに来ていた。
見ていたら無性に自分も剣を振りたくなる。
壁においてある模擬剣を取った。細身の剣二つ。
昔好きで見ていたアイドルが主演を務めた忍者の映画を思い出しながら振ってみた。
シュッシュッ
「面白い・・・結構体動くわ!」
足の蹴りの振りも入れてみた。
それを横目で見ていたバニッシュ。
「おまえ面白い動きするな。カンもよさそうだ」
なぜかそれから親身に教えてくれるようになった。
しまいには、近間(ちかま)のモンスター討伐に連れて行ってくれた。
ギルド長にプレゼントされた剣で初めてスライムを倒した。
<殺生(せっしょう)>をしたのである。
スライムだったからか罪悪感は全く無く、それどころか
(ゲームみたい・・・レベルが上がるのも感じて面白い~)
なんて思ったたほどだ。
そんなことが何回かあっていつの間にかゴブリンを単独で倒せるようになっていた。
ギルドには自分の力が測れる魔道具(マジックアイテム)がある。
本来冒険者や一般人でも料金を取るのだが、バニッシュギルド長が受付嬢に言ってこっそり測ってくれた。
名前;リリアナ ← 偽名を使っている人もいるので、念じた名前が出ることになっている。
種族;人族
性別;女
年齢;7歳
職業;孤児(こじ)
称号;《??》
レベル;13
経験値;686P(次のレベルまで114)
体力;120HP
魔力;1200MP
すばやさ;150P
剣術;50
体術;60
弓術;20
魔法;85
『水属性;15』
『氷魔法;15』
『光魔法;10』
『土魔法;10』
『鑑定魔法;10』
『空間魔法;10』
『風魔法;3』
『炎魔法;3』
『雷魔法;3』
『生命魔法;3』
『闇魔法;3』
基本、本人と魔道具を起動した受付嬢にしか見えない。
「 称号;《??》 ?見えないよ」
「おっ称号持ちか。でも見えないのは何でだろうな?俺にもわからん」
「魔法力85って高い?魔力も1200MP」
「すごいなレベル13なんだろ?それで85はすごいと思うぞ!魔力はずば抜けてるな、レベル的に3倍以上ある。将来が楽しみだな!あっと言う間に追い越されそうだ!」
嬉しそうに がはは!と笑うバニッシュ。
「称号が見えないのは発動するタイミングがあるらしいよ。レベルか、年齢ってのもあったかな?」
そう言ったのは古参の受付嬢、エルフなので見た目は20歳くらいの若々しい印象だが実年齢は70歳をゆうに超えているらしい
名前は「ルイズ」
この世界には大まかに4種族が居る。
人族;魔力石から魔法が放てる。
世界で一番人口が多く、世界人口は約10億人(地球の17世紀頃位の人口)
王家のみ、ずば抜けて魔力が高い。
寿命は一般人は100歳、たまに400年程生きる者がいる。
エルフ;エルフの使う魔法は精霊魔法なので、<魔力石>は無い。
人口は少なく、世界に2000人ほどだと言われている。
寿命は400~1000歳
獣人;魔法が使えない代わりに身体機能がずば抜けている。
人口は人間の1/3程。
寿命は120歳くらいで、たまに400年程生きる者がいる。
魔族;角(つの)が魔力石と同じ働きをする。
角(つの)が大きいほど魔力が高いとされているが事実かは定かでない。
人口は人間の1/4ほど。
寿命は200~1500歳で魔力が大きいほど長寿。
それぞれの種族はテリトリーを持ち、つかず離れず交流をしている。
過去に世界大戦で大喧嘩したが、それを人族の魔力石を2つ持った勇者達が治めたと言われている。
今は魔族以外は貿易や人材交流があるので人族の町にもエルフや獣人が少しは見かけるようになっている。
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現在、西の都ではなく、ここは王都。
{ギルド会館本館エントランス、卒業パーティ当日}
「なにやってんすか?マリーンさん」
受付嬢のマリーンはエントランス並んでいた机と椅子をどかしてチョークで大きな円を書いていた。
それを不思議そうに其処に居た冒険者が問いかけた。
「リリアナが2年間の仕事から帰って来るの。移転した時誰かいたら大変でしょう?この円の中には入らないでね」
「《赤の死神》っすか。実際会うとその恐々しい二つ名に違和感感じるけどな・・・そうかもう2年経つのか」
そう言ったのは壮年の冒険者。
エントランスには椅子と机が並べられ、奥には受け付けカウンターと、左奥には軽食とお酒や飲み物を注文できるバーもある。
日が沈み始めた夕暮れ時、エントランスには結構な人が居て、飲み食いしてる者やクエストの段取りをしてる者、単にくつろいでいる者。獣人、人間入り混じっている。
チョークの円の周りの空間が歪んだ。そこに現れたのは《赤の死神》その名に相応しい、おどろおどろしい姿だった。
その姿を見て、周りが動揺している。がたがたと椅子が動く音がした。
「おかえり~リリアナ!ご苦労様・・・・ちょっと何?血塗れじゃない!怪我したの?違うわね・・・返り血?・・・・これはちょっとまずいと思うよリリアナ・・・・」
返り血がしたたり落ちている。今殺してきました!と言う姿は《死神》そのもの。
「あっ・・・そうだねゴメンうっかりしてた」
なんだか心ここにあらず、と言う感じのリリアナ。
<クリーン・浄化>
魔法を唱えると、床から服、頭まで、血も汚れも無くなり先ほどまでの<死神>は何処へやら、綺麗になったリリアナの姿があった。
「依頼終了の手続きお願い」
「お疲れ様、黒幕は探さなくてよかったの?」
「そこまで依頼されて無いし、大体分ってるんじゃないかなぁ?」
(グルディン公爵は獄中でも諦めていないのかな?、お家、取り潰しにならなかっただけありがたいと、何故思え無いのか?)
第一王子にも第2王子にも18歳の時、『王印(おういん)』は現れ無かった。しかし王子達に仕向けられる刺客は後を絶たない。二人の王子が死にかけたのは1度や2度では無い。
「はい、OK!」
マリーンは終了のハンコを押して書類をリリアナに返す。
「で、どうだった?学校、楽しかった?楽しみにしてたもんね」
「うふっ、楽しかったよ最後王子と一夜を・・・」
「え?ちょっとリリィ!マジで?うわさで王子に傾倒(けいとう)されてるって聞いたけど両思いだったんだ」
「うん、でも期間限定だからさ、最後の思い出にって、身分違いで現実では結ばれないから。マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢に承認もらって誘惑しちゃった」
「え?・・・婚約者の公爵令嬢にお伺いたてて承認って・・・あいかわらず斜め上を行くわねあなた・・」
二人は小さい声でしゃべっているが、ほとんどのエントランスに居る人間は聞こえていた。
過去、学園内の一室
「昨日は教科書に死の魔法陣が組まれてたわ。とっさに私の教科書と交換して夕べのうちに解除しておきました」
教科書を交換するミシェル・ブラウニー男爵令嬢とマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢。それにギール・グランデール伯爵令息の3人で報告会をしていた。
「あっ王子」
部屋の窓から王子が側近の宰相閣下の次男のルードヴッヒと楽しそうに語り合ってじゃれているのが見える。
「愛しそうに見るのねミシェル、あまり深入りすると別れが辛いわよ」
そう言ってくれているマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢だった。
私は複雑な笑顔を令嬢に向けた。
「約束していた人が居ました。砦の戦闘で死んでしまいましたが、もうあのように人を愛することは出来ないと思ってました。あの戦闘で本当に大事なものをことごとく奪われてしまいましたから・・・。でもこの学園生活でお友達も出来て王子にも合えて本当に救われたんです。この依頼は私にとって救いになりました。」
4年前14歳のリリアナ
(リリィ、この戦闘が終わったら君の15歳の誕生日に結婚しよう)
(リリアナ、ジルと結婚するのか?父親役は俺に任せておけ)
(ギルド長のタキシード姿想像できない~)
(おい!ルイズ!そんなもん着るわけないだろう?俺の正装は筋肉だ!)
西の都のギルド会館は笑いに包まれていた。
その笑顔は二度と見ることは無かった。
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