57九夏3000キロ

 葬式では色々な人が泣いていた。

 フライングして施設で少し泣いたオレは、むしろ涙は出なかった。

 反対に、鉄朗は目を赤くしてぐずぐず言っていた。会ったのはたった一度だけやのに。でもその気持ちはよく分かった。


 葬式が終わると、葬儀屋の送迎バスで火葬場へ向かった。

 火葬が済むまでには時間が掛かる。その合間、葬儀場へトンボ返りして、昼食を摂る手筈になっていた。


 火葬場を出て、振り返り、煙突を見上げる。

 煙突から白い煙が出ている。オレはその煙を見ながら、鉄朗に尋ねた。


「あのタイトル、どういう意味なんや」

「あれか。3000キロは、あの旅で走った距離やな」

「そら分かっとる」

「あぁ。九夏ってのはなぁ――」


 夏の九十日間のことなんだよ。


「……そういうことか」


 二年間の旅の合算日程は三十日。


 オレの三十日、鉄朗の三十日、そして爺ちゃんの三十日。


 オレたちは確かに旅をした。

 雲の中に溶けていく煙を見ながら、オレはそう思った。


「帰りの時間もあるし、葬儀場戻ったら儂は行くわ」

「おう。悪かったな」

「いや、来られてよかったわ」


 おとんが「バス来たぞ」と言って手を振った。

 葬儀屋に戻り、鉄朗はカブに乗ってヘルメットを被ると「じゃあな」と言って走り出した。


 またな、とは言わなかった。

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