52 三十日目 別れはさり気なく

 大阪に着いたのは朝の九時やった。

 埠頭の隅で終わったなぁ、と話していると、タクシーが傍を通り掛かり、運ちゃんが窓から顔を出して「そこ邪魔やから退けや」と吐き捨てられた。


 オレたちは眉をしかめながらも場所を移動して「大阪やな」と頷き合った。


 気分も削がれたので、オレたちは早々に埠頭を離れた。


 住み慣れた街を走り、二人の帰り道が重なる最後の丁字路がやってきた。

 その手前でちょうど信号が赤になったので、オレたちは横並びになって話した。


「帰り道分かるよな」と鉄朗。

「おう。そっちは」

「問題ない」


 信号が青になる。


「じゃあ、またな!」


 鉄朗は先を走って左に折れて行った。


「またな!」


 オレはその背中に言葉を投げかけて、右折した。

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