33三学期が始まって
夏が終わって三学期が始まった。
オレたちは夏の旅を誰にも言わなかった。親からもあの旅は秘密にしてくれと頼んだ効果もあって、学校の友人たちの誰一人にも旅を知られることはなかった。
どうしてそうしたのかと言うと、単純に説明が面倒だったからだ。
日に日に気温は下がっていって、秋から冬になろうとしていたある放課後、鉄朗から話があると言われた。改まってなんや、と聞くと、進級前に転校するという。
「言うて兵庫やけどな」
「そうなんか。でも寂しなるなぁ。お別れ会でも開いたろか」
「ええ、ええ。性に合わんわ」
当人の希望もあって、クラスで鉄朗が転校するという話はホームルームも出ず、どうやら他の友人らには誰も伝えとらんかったようで、学期末の試験が終わり、終業式の日になっても鉄朗は何も言わんかった。
ただ、いつも遊んでいる五六人の仲間で集まっての帰り道、鉄朗は家路の分岐でオレたちに向かって「元気でな」と言った。
「なんじゃあいつ」と友人の一人が言った。
「さぁ」とオレは言った。
鉄朗、旅と共に去った男。
オレはそんなことを思った。
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