26 十五日目 逗留の1

 夏のゴング鳴らすか。

 と鉄朗はキッチンで朝飯のインスタントカレーを温めているときに言った。


「なんやそれ」


 オレが追加の具材としてソーセージを焼きながら言うと、鉄朗はスーパーの袋から蚊取り線香を取り出して火を付けた。そういや蚊が飛んどる。


「夏のゴングて」


 オレは鼻で笑いながら二枚の大皿にソーセージを分けて入れた。家の炊飯器で炊いた米をよそって、鉄朗が温めていたカレールーをかける。


「さんざんカレー食い散らかしてそろそろ飽きてきたな」

「やからソーセージ入れたんやん」

「それだけやと大して変わらんやろう」

「そうや、昨日スーパーでニンニク買ったやろ。あれ入れよや」

「あぁー、ニンニクなぁ。あれは何に入れても美味いよな」

「フライパンまだ洗ってないやろ。そこで焼いたら?」

「せやな。ほんま、だいたいニンニク入れたら正解やからな」


 皮を剝き、少量のオリーブオイルを垂らして焼き始める。頃合いを見てカレーに投入し、テレビを付けて朝飯にした。いただきます、と手を合わせて、ニンニクカレーを食べる。


「信じてたのに……」


 ニンニクカレー、げろマズ。

 残す訳もいかず、オレたちは朝から苦しんだ。


 昼前になって、ほんじゃあ続きを行くかとガレージを開けた。

 しかしどうやってもオレのリトルカブはエンジンが掛からず、近場のバイク屋を訪ねて、そこでエンジンが焼け付いて故障したことを知った。

 替えのパーツを頼んだが、何日掛かるか分からないという。


 一旦バイクを預けて祖父母の家に戻り、途中で買ったコンビニの弁当を食べた。


「修理パーツの宛てが出来たら連絡くれるってたけど、どうするよ」と鉄朗。

「あんまり遅れたら、学校始まってまうで」

「でも早くても三日は最低でも要るって言うてたし」

「まぁ、様子見やなぁ」


 その日はまた家に泊まった。

 溜っていた洗濯もんを洗って、なんとなく家を掃除して、バイクを洗って、これまでの道中の記録をノートに付けた。


「屋久島までは行かれんかも知れんなぁ。日程的に」

「うーん……」

「野武彦、明日一回爺さんらんとこ見舞っといたら」

「考えたけど、行ったら旅が終わってまう気ぃすんな」


 この日から、里帰りというべきか、逗留というべきか分からない停泊が始まった。


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