18 九日目の1 遠野とカッパ淵

 この日、石神の丘から、「道の駅さんない」までの道の途中、オレたちは遠野市へ寄ることにした。日本の民話や昔話に溢れている土地で、民俗学の大家、柳田国男の隠居所があることを知っていたからだ。


 始めに寄ったのは、重要文化財にもなっている南部曲り屋。

 小高い丘の上に石垣を設けて作られた日本家屋は、藁葺きの屋根に広い庭、木造の長い廊下が連なって、建物自体が静かやった。


 オレたちの祖先はこういう建物の中で生きてきたのかと思うと、民族ってのは何なんやろう、と考えずにはおられんかった。


 一通り建物を見物したあと、次はカッパ淵を目指した。


 ひまわり畑を通過していると、その道に無人の野菜販売があって、鉄朗がそこに寄って三個百円のトマトを買って食い始めた。

 オレはトマトが嫌いで、またそれを鉄朗も知っていたが、鉄朗は、


「食わへんの?」


 とわざとらしく聞いてくる。


「ええんか? トマト食うたらな、200年以内に死んでまうぞ」

「ウソぉん! 怖ぁあい」


 鉄朗は恐怖を顔に張り付かせてトマトをリスのように囓り続けた。

 トマトを食い終わるのを待ってから、カッパ淵へ向かう。

 カッパ淵の入り口には、カッパ淵の伝説が立て看板に描かれてあった。


 その内容を要約すると、昔カッパが馬を川へ引き摺り込もうとしたが、返り討ちにあって反対に馬小屋へ引き摺り込まれるというものやった。


「アホやん……」と鉄朗。

「アホやな……」とオレ。


 このカッパ淵は売店でカッパ捕獲許可証を発行してくれたりと、所々ぶっとんでて面白かった。


 ほなそろそろ行きますか、と話していると、また別の立て看板を見付けた。

 そこにはいたずらをしたカッパは、その後、お詫びをして許され、馬の飼い主の母子の守り神になり、常堅寺が火事に見舞われたときには頭の皿の水で火事を収めたらしく、今ではカッパ天狗として境内におるらしい。


「さっきは言い過ぎたかもなぁ」


 と二人で頷きあった。

 そのあとカッパ直売所という売店によって、みそ焼きおにぎりに舌鼓し、座敷わらしラムネを飲んだ。


 本日も相変わらず曇り空やったが、夏にはラムネだな、と思った。

 さぁ出発するか、となったときに、ふとラムネの瓶に張られた座敷わらしのイラストのあるラベルを見て、これをバイクに張ったら何かおもろい、と思って実行した。


「見ろよ、バイクの可愛さのステータスが7上がったぞ」と後輪の泥よけに張ったラベルシールを指して鉄朗に言う。

「元はなんぼやねん」

「9万8千ぇん」

「通販番組の値段発表みたいに言うなよ。ほんで7て、微増も微増やな」

「座敷わらしは幸運にステータス全振りしとるからな」

「幸運はなんぼなんや」

「宇宙や」

「数字で言えよ」


 あぁしょうもな、と一ボケ終えて、遠野を出た。


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