5旅の前

 いつも夏休みの課題をのんびりやるオレが、夏休み開始五日で全て片付けるのは至難の業。明日にはもう旅が始まるっちゅうのに、午後十一時を回ってもまだ半分数学の課題が残っとる。

 鉄朗はやり終えたんかと言うと、国語の長文問題が丸々全部残ってた。しかしもう知らんと言って投げ捨て、「明日に備えるから」と寝てもうた。


 オレは両親に全部片付けてから行くって約束してもうたし、たぶん出て行ってからチェックされるから逃げようがなかった。

 コンビニで買った刺激の強いガムを噛みながら、方程式とか図形の問題を解いていくが、頭が回らん。

 そもそも方程式ってなんやねん。数Aと数BはなんでAとBやねん。

 αとβではアカンかったんか。数オレと数キミでもええんちゃうか。数オレってカフェオレみたいやな。カフェオレとアメリカンでもええっちゅう訳やな。オレはアメリカンを選ぶで。体育の後のアメリカンⅡはごっつ眠いでぇ。


 アカン。もうほんまに眠い。


 けど旅の着替えの詰め込みも残ってるし、我慢せんといかん。けど着替えの準備してたら睡眠時間が減る。それでバイクに乗るんは怖い。


「鉄朗、起きろ」

「……なんや」

「オレの服の準備だけしとってくれ。もう間に合わん」

「あぁ? ……しゃあなしやぞ」


 鉄朗はもそもそした動きで起き出して、部屋の洋服ダンスからオレの服とか下着とかを引っ張り出した。


「適当に選ぶで」

「おう。下着だけは忘れんでな。二十五日も旅すんのにパンツ無いとか、耐えれん」

「そんなミスするヤツ居れへんやろう」

「まあそやな。あははは」


 こんな分かりやすい伏線が回収されるとは、流石に思わんかった。

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