0旅の切っ掛け
終業式が終わって次の日に夜行バスに乗った。
ターミナルに夜中に大荷物を持って一人でおったら、何か悪いことして逃げてるような気がした。たぶんまだ爺さんを可哀想やなって思う気持ちと、見舞いくらいしか出来んっちゅう申し訳ない気持ちがあったからやろう。
「……様、……野武彦様いますか」
原色の青色でてらてらした椅子に座ってたらいつの間にかうとうとしてて、名前を呼ばれてハッとなった。顔を上げたら、バスの誘導をしとる制服を着たおっさんが小さいメモ帳を見ながらターミナルをきょろきょろしてる。
慌ててカバン持って近寄ったら丁寧な言葉で案内をされたけど、その態度が「手ぇ患わせんなや」っちゅう感じで腹が立った。
基本的におっさんは態度悪いな、と思いながらバスに乗り込んで自分の席に座ったところで、でもそう言えばさっきまであった罪悪感みたいなもんが消えたな、とも思った。怒りで感情が上書きされたらしい。オレは単純でアホやな、と呆れた。
バスが高速に乗って車内灯が消えたとき、鉄朗からラインが来た。
『明日カラオケ行こや』
何でもない文章。やけど夜行バスの中でされる誘いの連絡は、嬉しさと寂しさが綯い交ぜに感じられる。それを正直に言うとキモがられるから、ボケて返した。
『いま夜行バス。逃げてんねん』
『誰から?』
『お前からじゃ!!』
『まさか、家に仕掛けたGPSがバレたんか? クソッたれ!』
家にGPSって、めっちゃ無駄やんけ。ほんで口悪いなこいつ。
少しの間しょうもないやり取りをして、それから眠った。
バスに揺られて見た夢は、地球外の小さな星で巨大なゴリラに襲われながら女の子を助ける夢やった。わしゃコブラか。と思った。
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