蒼星の歌姫

乃愛

第1話


「新入団員の…アレン君だね」

「はい。今日からお世話になります。」


____ルージェント王国魔法騎士団。

強い魔法力と戦闘技術を持つものだけが所属する騎士団。

その騎士団に今日、とある少年が入ってきたのだ。


「えー、団員一同。今日から新たに入る新入団員を紹介する。」

「アレン・クラウです。よろしくお願いします!」


____ひと月前


「はっ!」

剣に力を振り絞り、戦術魔法で切る。

王国の庶民街に住むアレンは、1日を剣術の練習に費やし、魔法力と剣術は街で1番だった。


「つまらない…なんかもっとこう…ビリビリした感覚がほしい」


そんなことを考えながら、いつものごとく街のはずれの森に入った。

何か…綺麗な音色が聞こえる。


「これは…歌声?こんな森に誰かいるのか?」

「!?…誰?」


奥の方から透き通った声が聞こえた。

がさがさ、とこちらに近づいてくる。なぜか、逃げようとは思わなかった。


「あ、えっと…」

「それ、剣?騎士さんとかなの?」

「いや、ただの趣味だよ」


天然要素抜群の喋りとは裏腹に、純白のストレートロング、ピンクがかった頬にすらっとした手足は、まるで女神のようだった。


「私、あの人たち以外に話したことないの...」

「…?」

「ねぇ、君はなんていう名前なの?いつもこの森にいるの?」


少女はアレンの周りをうろちょろしながら、答える間も無く質問を問いかけてきた。しばらくしてから、遠くの方にかすかな足音が聞こえた。


「!?...君、隠れて!」

「えっ!?あ、あの!?」


少女を反射的につきとばし、剣をかまえる。炎をまとう戦術魔法をくりだし、剣をかまえた。


「誰だ!隠れないで出て来い!」

「そこの少年。この辺に白い髪の少女を見ませんでしたか。」

「!?」


黒を基調とする中世服に国の紋章の入った剣は、この国の騎士団、ルージェント王国騎士団だ。女の騎士はアレンの周りを見渡すが、誰もいないことを確認し、その場を去ろうとした。


「なんだ?いったい...。」

「ほら、いましたよ。」

『!?』


初めから察していたかのように後ろを振り向き、少女が隠れた茂みを覗いた。


「フレイア様、帰りますよ。団長がお怒りでございますので。」

「いやよ!私は自由に歌って自由に暮らしていたいの!だから帰らないわ。」


騎士と少女のやりとりに突っ立ってる場合じゃない。『様』と呼ばれるからにはそれなりの身分なんだろうが、放っておくおけにはいかなかった。


「君、逃げるよ!」

「行かせませんよ!」


_____目の前に木々が阻む。炎で燃やし尽くそうとするが、木々が水魔法へと変化し、瞬時に消されてしまう。次の魔法を...と構えるが、体力の限界がきたのか魔法式を構成することはできなかった。騎士の余裕ぶりに、歯が立たなかった。


「あまり私達の力をなめないほうがいい。君、フレイア様をお目にかかったことがないようだが、それでもルージェント王国民か?一度城下町に来てみなさい、少年。」

「くそっ...」


騎士と少女は瞬間移動魔法で消え去り、森に静まりが戻る。

あのひとが誰で、何をしようとしていて、なぜ「騎士団」の人が連れて帰りに来たのかわからなかった。でも、あの少女から感じた。何か、引き寄せられるものがある。ビリビリした感覚が_____確かに、あったんだ。


「城下町....もう行くことはないと思っていたが....」


アレンは首から下げたネックレスを握り、森を去った。

両親のいない一人ぼっちの家に戻り、調べ物を進める。あの騎士に言われた通り城下町に行くにあたって、「フレイア様」を知っておきたかったのだ。王家なら目にしたことがあるが、名前は...違った気がする。他に騎士団が関わるレベルの人物なんていただろうか?何年も街から出ずに暮らして来た身としては、とてもわからなかった。


「近所に落ちてた新聞...これならいるかもだよな...」


_____グラスト王国の大規模な戦術魔法被害を受け、ルージェント王国魔法騎士団が派遣されていましたが、歌姫、フレイア・ヴィズ様を中心とし、順調に回復した模様です。ルージェント王国魔法騎士団の派遣隊は帰国。..._____


「フレイア...まさか、この歌姫フレイアって....あいつのことなのか...!?」



まだ誰も知ることはないだろう。この森での偶然の出会いが、過去を巡る物語の一ページをめくったということに_____。





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