不器用なアナタ

カゲトモ

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「本当にありがとうございました。シロサキさんがいらっしゃらなかったら今頃どうなっていたか、私が」

「はは、そんな大げさな」

「でもだって、あの時声を掛けて下さらなかったら社長の事だもん、私クビになっていたかもしれません」

「まさか、いくら社長でもそんな簡単にクビを切ったりしないよ」

「でもやりかねないでしょ?」

「少しね」

 一体この人たちはどこで働いていて、どんな社長でどんな失敗をしたのだろう。なんて、シェイカー片手にバーテンダーは耳を傾けている訳で。

 クビを切られるかもしれないような失敗っていったいどんなのだ? 個人情報流出とか、データ全消去、とか? それとも些細なことでクビをちらつかせる社長、とか? いや、女性の方が大げさに言っているだけか。それくらいのミスを何かしてしまったってことだよな。んで、それをこの長身の男性が救ってくれたと。

「ふふ、私がまだ会社にいられるのはシロサキさんのおかげです。本当にありがとうございました」

「わぁもういい、もういいからそんなにお礼ばっかり言わないで」

「だって」

「実際大したことしてないし、そんなにお礼言われると逆に困るっていうか」

「え、困ってます?」

「少し、ね。あっでも別に嫌とかそう言うのじゃなくて、なんかお礼言ってもらうのも申し訳ないっていうか。ほら、もう問題も解決したことだし、案件だってむしろ良い方向へ向いているわけだし、過ぎたことは気にしないで」

「でもそれはシロサキさんが動いてくれたからですし」

「いいのいいの、そんなのは。俺がしたくてしただけで、それが結果的にこうなっただけなんだから」

 うんうん分かる。自分は当たり前のことをしただけなのに、そこまでお礼を言われると逆に困るよね。分かる分かる。男前は辛いってことだよね。あ、違う?

「分かりました。それじゃぁここの代金だけでも私に払わせてくださいっ。さっきのレストランでもご馳走になってしまったし」

「いや、さすがに女性に払わせるわけにはいかないっていうか」

「でもそれじゃぁお礼の食事に誘った意味がないじゃないですかぁ」

「う」

 そう言われた男性はタジタジって感じで視線を外す。ちょっとだけスマートさが足りないのは若さゆえ、かな? 

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