闇からの脱出

カイムが目を覚ますと見渡す限りの暗闇だった。

一筋の光もなく、自身がそこにいることすら不安になる。


(あれ、俺死んだんスか?)


声に出したつもりだったカイムだが、声を出すことができない。

正確には声を出しても音が響かない。

まるでフワフワと宙を浮く感じでカイムは闇の中を漂っている


(真っ暗すぎてわかんないっスねこれ)


自分の手を見てみようとしても見ることが叶わない。

もし自分以外にこの暗闇にいたとしても気づくことができないだろう。


「結界か幻術かわからないけど力技しかないっスかね」


こうした結界から抜け出すには何個か方法があるが、カイムが可能な脱出方法は力技しか持ち合わせていない。

カイムはアップルに付加してもらった強化魔法の力を右の拳に集中させる。


「はああああああ!」


自分の下に地面があると想定して思いっきり拳を突き出す。

すると固い壁に拳をぶつけたかのような確かな手応えをカイムは掴んだ。


「お」


ピキっと空間にヒビが入る。

日々が入った隙間から、光が差し込み段々とカイムの周りが明るくなりだした。


「おお?」


ヒビが大きくなりさらに光が溢れ出す。

そしてパキンっと音がするとカイムは急に重力に引っ張られた。

カイムの真下が大きく割れて引きずりこまれるように、落ちて行く。


「うおおおおおおおお」


暗闇の空間から脱出すると周り一面の青空と所々に大きな白い雲が宙を浮いている。

カイムは自分の居場所を確認すると、そこは高度1万メートルの大空。

現状の説明をするとパラシュートなしのスカイダイビングの真っ最中だ。。


「ちょっ嘘だろおおおお」


落下しながらカイムは地面を見渡す。

無事に着地出来そうな場所を探すがあたり一面森林だが、一箇所だけ木々がなく拓けた場所を見つけた。


「さっきの空間から出るのにエンハンスの魔力ほとんど使っちまったし、残り滓だけで乗り切るしかないっスか!!」


カイムはアルンの正拳突きを思い出す。

全てを振り絞り一撃を放つ。


「うおおおおお!」


正拳突きを放つと地面に大きなクレーターが出来上がり、フワリとカイムの体が浮かんだ。

しかし浮かんだのも一瞬で、ドスンと地面に叩きつけられる。

無傷とはいかないまでも最小限で乗り切れた。


「やばかった.....まじでやばかった」


同じことをもう一回やれと言ってもおそらく成功率は5割もないだろう。

瞼が重くなってくる。

魔力も体力も使い果たしたカイムに睡魔が襲いかかって来た。


「10分だ...10分だけ」


そうしてカイムは森の中で静かに深い眠りに落ちていった。







カイムが眠りについてから5分後のことだ。

森の木々をくぐり抜け、中から一人の少女が出てきた。


「全くしつこい!」


息を荒げながらカイムの寝ている方へ走ってくる。

何かに追われているようで、背後を気にしながら走っているため、地面で寝ていたカイムの存在に全く気がつかず、足を取られ転んでしまう。


「きゃあ!」


そして少女がカイムの存在に気がつく。

カイムの方は凄い勢いで蹴られたにも関わらずまるで起きる気配がない。


「ちょっとあなた!大丈夫!?」


明るい桃色の髪を靡かせ、少女はカイムに近く。

歳は16前後で、身長は低くもなく高くもなく160センチちょっとと言ったところだろうか。

少女から見れば、こんな人気のない森の中で倒れている人間を見つけたら、寝ているのではなく倒れていると判断するのはおかしくない。

ましてや魔女ティアマトとの戦いの後で着ている服はボロボロだ。

見た目は完全に行き倒れだろう。

少女はカイムの状態を見るべくカイムの側にしゃがみこんだ時だ。

森の中から何人かの男の声が聞こえてくる。


「探せ!この近くにいるはずだ!」


少女は苦渋の末と言った表情でカイムの胸に三日月が二つ重なった形をしたペンダントを置く。


「ごめんなさい」


そして少女はその場を走り去る。

それから1分も経たず、森の中から3人の兵士の姿をした男たちが現れた。



「おい人が倒れているぞ!」

「こいつが報告のあったレジスタンスなのか?背は低いとの報告だったがどう見ても180くらいはあるだろうよ」


二人の兵士が見定めをするようにカイムを観察する中、

一人の兵士が漁るようにしてカイムの持ち物を探り出す。


「けど隊長。報告のやつじゃないかもしれませんが、これを持ってるってことはレジスタンスの一員で間違いなさそうですよ!」


先程、少女の置いていったペンダントを他の兵士に見せる。

兵士達は顔を見合わせて、確かにと頷きあった。


「仕方ない。一旦こいつを王城まで運ぶぞ」


兵士達はカイムを運び上げ、森の中を歩きはじめた。




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