ワールドワイド・フロンティア
プロローグ
後始末と巻き添えと
―――かつて、人と竜が激戦を繰り広げ、双方の大半が滅亡して、そのまま放置されていた異世界がありました。
『事故物件世界』と揶揄されたこの世界を、新進気鋭の若い女神さまが支配権を得て、強引に開発を始めました。
しかし、途中までは順調だった開拓事業は、世界各地で発生する強力な敵対生物により頓挫寸前。
このままではまずいと感じた新米女神さまは、またしても強引な解決手段を思いつきました。それは―――。
「…………で、また
「申し訳ないとは思っていますよ。夕陽」
深く項垂れる少年に対し、謝罪を口にする女性の態度には言動に反してまるで悪びれた様子は無かった。
此処は人の住む人の世界。ただし、その裏、その闇、薄皮一枚先の境界を隔てた先には人ならざるものの存在も多く存在する。ただその程度の世界。
そんな世界の、ごくごく普通の一軒家の、なんの変哲もない居間で、異質を抱え異端に身を寄せる少年―――
「女神の懇願とやら、確かに俺のとこにも来たよ。わざわざ夢に現れて最悪の起床をお届けしてくれたわ」
「…っ」
木製の椅子に座す夕陽の腕の中、朱色の和装に身を包んだ小さな小さな女の子は、宿主たる夕陽との同調率の高さ故か同様の夢を見たことに対する憤慨を、両手を大きく上下させることで示して見せた。
その真名に妖怪種最古参とされる大妖・座敷童子を有する童女、
「断ってもいい?俺って一応、この世界ではね、学生って言って学業を修めるそれなりに将来的に重要な時期の多感な年頃なんですけど」
「大丈夫ですよ?明日からお休みじゃないですか貴方」
「なんでお前が学校の休業日を知ってんだよおかしいだろうがぁ…!」
わざわざ金曜日に来訪する辺り狙ってきているとしか思えない。逃げ道を潰されていくことに夕陽の焦りは心中で膨らむ。
本来であれば学校なる教育機関の存在すら知らないはずと高を括っていた当の相手はといえば、テーブルを挟んだ向かいの椅子に背筋を伸ばして礼儀正しく腰かけたまま惜しまぬ美貌をもってして、にこりと静かに微笑みを返した。
揺れる金色の髪は生来のものとして、この極東の地における出自を否定する輝きを振り撒いている。彼女の場合は、そもそもこの世界に出自を持たないが。
身体と椅子の背もたれの間から窮屈そうに伸びる尾とヒレのような耳、極めつけに頭頂部から生えた牙のような二本の角が竜人特有の特徴であることを夕陽は知っている。
彼女の名はヴェリテ。『武勇』を司る黄金の雷竜。
かつて命懸けの死闘を交え、命知らずな共闘を行った複雑な関係性にあったが、現在は親しい友人(友竜?)として親交を深める間柄だ。
そんな彼女が言うに曰く、『竜種の同胞達が残した厄介事の後始末に同行してほしい』とのことだ。
正直言ってしまえばまるで意味が理解できない。
「お前俺の百倍は強いくせにどうして俺を巻き込む?」
「ご謙遜結構。貴方の強さは重々承知の上で来ていますので。しかしながらまぁ、理由としては二つ」
ぴっと二本指を立てて、ヴェリテはそのひとつを折る。
「先の目的は本来
「あの子……あー、エヴレナ嬢か」
件のお転婆娘を脳裏に想起させ、頭を抱える。この流れにもデジャブを感じた。
武力を極める黄金竜とは意義と本質を違える『抑止』の真銀竜。確かに竜種の不始末を処理するならば役割としては適任であろう。未だ発達途上の未熟な仔竜であることを除けばだが。
「ちなみに二つ目は?」
一つ目の時点で夕陽の中では協力も吝かではない心境になりつつあったが、一応提示された理由の残りを促す。
ヴェリテは先ほどよりも大きなにっこり笑顔で、
「貴方が来てくださればあの怪物女もやってくるでしょう?利用しない手はないと考えました」
「お前マジでぶっ殺されるぞ……」
思わず幸を抱えたまま立ち上がる。かの女性は万里離れていようが見聞きして情報を得る手段と能力があることを、よもやヴェリテが知り得ぬはずがあるまいに。
彼女は現在、夕暮れ時の町へと小鬼の少女・
「この馬鹿!もう行くならさっさと行くぞ!人ん家を惨劇の現場にするつもりかよ!?」
居間が散乱する竜の血肉で彩られるのは勘弁してもらいたい。同じく表情を青くする幸の了承も得て、夕陽は何度目になるかも考えたくない異世界への扉を潜る決意を固めた。
「ふふ。貴方のそういうところ、本当に好きですよ。我が愛しき人の子よ」
「これっぽっちも嬉しくない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます