メイドと秘書のぼやき 4

 いつもの大衆居酒屋、いつもの席、いつもの二人。

 何も変わらないいつもの飲みに来た二人の様子である。今日も一日の仕事を終え、乾杯しているルビノワと朧であった。

「カンパーイ☆」

「イェーイ☆ 委員長就任おめでとう、朧」

「ううっ、ありがとうございますう」

 美味しい最初の一杯を戴き、一つ息をつくとそのまま食事になだれ込み、落ち着く二人。

「ご馳走様」

「ご馳走様でした」

「あー、お腹一杯。

 さて、人数も四人に増えてこれから色々環境も変わって行くわね」

「ルビノワさんが今度からメイド服を着るようですしね」

「いや、それ聞いていないんだけど」

「チャイナ服でしたっけ?」

「いえ、それも伺っておりません。朧委員長」

「ええ? じゃあ、後はそんなにありませんね。うーん、何を着せようかな」

「あなたの妄想か。なら、私は辞退させて頂きます。

 だってなんか抵抗があるもの。メイド服」

「ええーっ! お嫌いなんですかあ、この服!? とひょひょ……」

「あ、違う違う。

『あたしの柄じゃないな』

と思ってね。あなたはホントに良く似合っているわよ。と言いますか、最近他の服着ないんじゃないの? 前は色々着ていたのに」

「何かどんなの着たらいいか分からなくなっちゃったんですよ。何と言いますか

『高校卒業後に私服で良くなったら、何着たら良いのか分からなくなった』

という事態が発生するらしいですが、喩えるならそんな感じですね」

「日本の学校じゃあるまいし、そんな風になるもんなのかしら。

 じゃあ、お姉さんが今度デコレートしてあげよう。ホラ、この前行った所で」

「蝋人形館ですか?」

「何でそうなるのよ。違う。ホラ、あそこよあそこ」

「下北の『ザ・フュー○ャーショップ』ですか?」

「韮沢靖デザインの服がいいの? ヘビメタ武装キャラになりたいの? まあ、それならそれでいいけど自信ないなあ。

『ギロチー○』の服でも着せておくか」

「サイズが合わなかったら新しいプレイになってしまうのでちょっと」

「じゃあ、裸に露出の激しいバトルスーツを着せて、その上に役に立たなそうな装甲でも付けておくか。殆どコスプレね。後はチェーンソーでも持っていれば良いんじゃないの」

「チェーンソーはお巡りさんがうるさく言ってきたら使ってしまいそうなのでちょっと。

 せめて鉄板入りの潰した学生カバンなら」

「スケ番かっ!

 いや、でもお姉さんはそんな朧ちゃんはちょっと見てみたいわね」

「ああ、OKなんだあ」

 朧のジト目を受け流し、注いだ一杯を味わうルビノワ。

「でもホントに何処なんですかあ? 分かりませんよう」

「だからー、この前の休みに一緒に出掛けたでしょ?それで電車で降りた所よ」

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……あっ! 分かりましたあ!! あそこだあ☆」

「そう、そこよっ、朧!」

「『浅草花や○き』

ですね? って、うっ、うっ、揺すっ、られたらっ、早くっ、回っちゃいっ、ますようっ、ルビノワさあんっ!!」

 朧の肩を掴み、無言で揺さぶるルビノワ。朧、激しいヘッドバンキング。

「……くっ、ぬっ、何でっ、何でこいつはっ! こいつはっ!!

 花やし○で! あんたを!! どう、どうデコレートしろと、いうのか! こ・い・つ・は……!!」

「気持ちっ、悪くっ、なっちゃいっ、ますようっ、やめてえっ!」

 朧の哀願に

(確かに吐かれちゃかなわないわ)

と思い、ルビノワはぱっと、掴んでいた朧の両肩から手を離した。互いにぜいぜいと息をつく。

「くっ……分かった。全くホントに覚えていないのね……!?」

「分かって頂けましたか。全くホントに覚えていません……!」

「ううっ。何でようっ! あんなに楽しく二人で笑ったのにいっ!!

 何だか一人で私馬鹿みたいだ。きいっ!このスーパードライっ!!」

 目の幅サイズの悔し涙を

『ぶしゅしゅーっ!』

と、振ってから口を開けた炭酸飲料の様に噴き出しながら、ハンカチの端を噛んで引っ張るルビノワ。

 水を一杯飲んで気を落ち着けてから、こめかみを掌で抑えつつ優しく諭す朧。

「はぁ……そんな事ありませんよう。自分一人だけでもその時楽しんでいたなら良かったじゃないですか。ね、ルビノワさん☆

 まあ、私は残念ながら全く覚えていませんが」

「何だか全然慰められている気がしない! ちくしょー、何よあんた、最低!!

 その胸で泣かせろっ! 何よそれ、朧、ホントに最低……」

「あ、あの……いつもみたいに脱いだ方がいいですか……? それともこのままで?」

「どっちでもいい。と言いますか

『いつも』

って何だー」

 ぶすくれつつ眼鏡を外して、テーブルに置くと、朧のメイド服の胸に頭をぐりぐり押し付けるルビノワ。

「はいはい。そうですね、たまにでしたね。

 そういう事にしておきましょうねえ。よしよし」

「もういい。ちょっと寝る!

 朧、膝枕!!」

「はいはい。こんな私ですけれど、そこへ連れて行って下さいねえ? ルビノワさん☆」

 酔っ払ってくだ巻いて眠ってしまったルビノワを、朧は微笑みながら優しく見つめた。

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