アコースティックギターと一人の静けさ。

エビの死体

アコースティックギターと一人の静けさ。

誰もいない部屋で一人くつろぐ青年は深夜を過ぎる。

豆電球のみの部屋は妙に辺りと比べて眩しい。

半袖でくつろぐには少々心許ない風が彼の髪を揺らした。



耳鳴りような静寂が騒いで、心に穴の空いたような淋しさが静かに彼を覆う。堪えきれなくなった彼はいつしかラジカセへと手を伸ばしていた。



剥脱した部分が妙に目立った赤いラジカセ。流れる音にも張りがなく、プツプツといった機械音が囁きはじめた。



耳鳴りはやがて音量を落としたラジカセのメロディーに乗せられて空へと舞う。

空に舞うメロディーとともに聞こえる歌声は聞き覚えがある声。懐かしいそのメロディー、声は心の溝に白湯を流しこむように満たしていった。



誰もいない、錯覚に溺れてしまいそうになった彼の手を取る声は撫でる青や弾けるオレンジ、偶に輝く黄色、抱きしめる赤様々な色をつぶった眼に映した。



アコースティックギターと一人の静けさ。コードは心を動かし、心はコードを動かした。


語る言葉を噛みしめることができずにいた彼にとって音階だけは動因になり得た。落ち着く長調に物足りない短調、軽快なステップに流れる長音、全てで彼を躍らした。



やがてストーリーは終わり舌足らずなコードでラジカセの口元を塞いだ。

狂おしいほどの渇きを激しく飲み干す彼の目は静かに明日を見つめている。



彼は豆電球は消さず、意識の灯火をふっと消した。

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