第75話 まさか
やばいやばいやばいやばい。
どうしよう。
この高校生活でろくに友達できなかった。
だから、こうしてツケが回って来たのだ。
リュウは他校の人間で、他所の生徒はあまり来れないような雰囲気のある高校。ましてや、あいつの高校なんて、気性が荒く素行の悪い生徒が多いと噂されるような学校。そんな高校の制服を着たガタイのいい金髪の男が来たら、間違いなく注目を浴びるし、下手したら問題になる。
一方の藤田くんだって、あんなことがあったんだから当然一緒にいることなんて出来ないし。
体育館を出てから、教室にたどり着く。
カバンから財布を取り出して、露店に向かうクラスメートたちを横目に、僕はただ1人で、今日1日をどう生き抜くかを苦悩し、悶絶していた。
とにかく、辺りをぶらぶらと歩いてみることにした。
ただじっとしているのも苦しいだけだから。
しかし、1人で歩き回ると、友達がいないのか、と思われることの恐怖に煽られる。他の生徒に一瞥されただけで、そう言われているように思い込んでしまう。
教師なんかは、露骨にそれを言ってしまう人がいるのだから、たまったものではない。
ケータイからメッセージが来たのは、教室から外に出て3分後のことだった。電源を入れて画面上に映る差出人の名前を確認する。
あの子からだった。
まさか、本当に来るなんて。
事前に、行くと言われていたものの、それは、彼女の性格上、冗談や冷やかしだと受け止めていたが、どうやら本気だったみたいで、僕は面食らった。
ふざけ調子に言うもんだから、僕はまんまと騙された。
心臓が、バクバクと胸を叩いているのが、手に当てなくても分かる。
僕は、目に見えて動揺していた。
だって、学校も違う彼女が、僕と一緒に学内を歩いているところを見られたら、クラス中で噂になってしまう。そうなってしまえば、僕は大事なものを失うかもしれない。
文面には、校門前に到着した、という内容が書かれていた。それを見て、なんだか逃げ出したくなる気持ちになる。
それでも、僕は覚悟を決めて彼女に会いに行く。
会いに行かなければ、ならない。
彼女だって、僕と同じくらい、いや、それ以上に緊張しているだろうから。それなのに、よそのテリトリーの中にいる僕のところへ、勇気を出して行こうとしたのだから。
もし、僕が今でも『拒絶』を持っていたとしても、僕は絶対に使わない。完全に使えなくなった今、こんなことを言うのは、単なる綺麗事のように思えるけど。
僕は、もう逃げない。
周りの目線なんて関係ない。
教室から校門までは、さほど距離はなく、メッセージを確認してから1分も経たずに到着した。
覚悟を決めて内側の校門を潜ってから、辺りを見渡す。
いた。
「も〜、遅い!」
快活な彼女の声は、何か後ろ暗い気持ちを誤魔化すような、どこか作り笑いのような声音だった。
だから僕も、彼女に同調して、声に抑揚を持たせる。
「ごめん、本当に来てくれるとは、思わなかった」
「私は、本気なんですからね! 今日は、ちゃんと思い出作るんですから!」
僕の言い訳を、彼女は本気だという意思表示で覆す。
こういうところは、彼女らしい。
変わってないな、と思う。僕は、観念したように、返事をした。
「分かったよ」
樽本さん。
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