文化祭編
第74話 思い出
いつもの校舎には、いつもは付けられていない装飾が施されている。
保護者会が運営する模擬店のテントが数件並んでいて、彼らが開店の準備を行なっている。
文化祭。
勉強で詰まった退屈な日常から、一時的な非日常を呼び寄せたような、そんな夢のような時間。
体育館で、生徒会長や、校長による挨拶で、文化祭がスタートした。
2日間ある文化祭のスケジュールはこうだ。
まず、1日目はクラス展示。僕や藤田くんのクラスは演劇だから、この日は完全にお客さんとしての立場でいる。
2日目は演劇。僕たちの出番だ。表舞台には出ないけど、物語の核となる脚本を書いた藤田くんは、きっと緊張しているだろう。舞台裏で小道具を用意するような雑務の僕でさえ緊張する。
クラスで演劇をしようと意見した、鈴井くんたちのことを思い出す。
半ば強制的に演劇をすることになった不文律。それには不満を禁じ得ない。決めたは良いが、十中八九、中途半端なクオリティで、ただ壇上に立って目立つだけが目的だろう、そう思ってきた。本やアニメなどの非現実にまるで理解がないリア充たち。
しかし、この2ヶ月間、彼らは、フィクションに関心が無いなりにも役に没頭するように真剣に取り組んできたし、脚本を書いた大石くんも、途中で文学作品などに詳しいクラスメートと物語を一緒に考えたり、この文化祭のために尽力した。
そんな彼らに、僕は容赦のない悪意を抱いてしまったことに気付き、少しだけ申し訳なく思う。
そう思うのも、今日が文化祭という特別な日で、心が踊っているからこそ何でも許せてしまうような状態だからかもしれない。
まあ、それでもいいや。
それでも、この文化祭という特別な時間だけでも僕は、彼らのような人間たちとも思いっきり盛り上がっていたい。
去年の今頃は、そんなことすら思えていなかっただろうな。
それは、全て。
彼女に会えたから、かな。
開会式が終わり、クラス毎に整列していた全校生徒たちは、その隊列に解放されたようにバラバラに散って、本来、行動を共にするグループを作り始めた。
鈴井くんたちのような体育会系で、女子とも気後れすることなく会話することのできる人間の集まりや、何らかの趣味で意気投合したような、引っ込み思案で大人しそうな人たちの塊が、体育館の中に混在していたが、次第に彼らは各々のグループで動き出し体育館の外へ消えていった。
展示を担当するクラスは、クラスメートと思しき人たちと自分たちの教室に向かおうと歩き出す。
演劇をするクラスは、たいてい午後の3時くらいに集まるところが例年多い。それまでは、各自で好きな友達やカップルと一緒に展示などを見て回る。
自分の大好きな人たちと、特別な日に行動を共にする。それはきっと、思い出に残る時間になるだろう。
彼らも、そして僕も。
僕は…。
一緒に回る人がいない!!
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