第71話 エール

「珍しいこともあるんだな、お前から誘ってくるなんてよお」


「悪いか?」


「いや全然。むしろ嬉しいぜ、親友に頼られるって」


いろいろあった週の、土曜日。


リュウの家に来るのは何年ぶりだろうか。ずっと前に来たのに、この家で遊んだのが、まるで昨日のことのように感じる。


部屋の配置が、当時とほとんど変わっていないからという理由かもしれない。


「ゲームしようぜ」


ああ、と答えると、彼は棚からゲームソフトを取り出す。


これまた、懐かしいものを持って来たな。


『ドラゴンブレード』。


中学時代、こいつの家で夜遅くまで遊んだ記憶が蘇る。こいつの姉から「早く帰れ」と口うるさく言われて、2人してそれにビビりながら、次のセーブポイント目指してたっけ。


このゲームは、基本的に1人用だが、それでも、こいつのプレイを見るだけでも面白い。リュウもまた、僕がしているところを見るのは面白がっているはずだ。


据置機の電源を付いて、そこから何時間か、ゲームに興じる。




「もう始まってるんじゃないのか? 就活」


夕方、リュウの家を後にしようとする僕は、聞いてみた。

さすがに野暮な質問だっただろうか。彼の顔が微かに翳りを見せる。


「おう、んなもん余裕余裕!」


彼は笑い飛ばしてそう言った。もうすぐ、黒くなるはずの金髪が頭ごと揺れる。僕も、これ以上は聞かないことにして、「そっか」とだけ言った。


じゃあ、と手を挙げて、彼に背を向ける。



「サトシ!」


呼び止められて、僕は振り返る。


「悩む気持ちもわかるけどよぉ、お前は、自分の気持ちに正直にいていいんだぜ! 他人のこと気にしてないで、たまにはわがままになれよ!」


相変わらずの明るい顔で、僕にエールのようなものを送る。


「なんだよ、それ!」と、僕も笑い飛ばした。


再び踵を返して、帰路を歩き始めた。



その日の帰り道は、大好きなロックバンドの曲の鼻歌を歌いながら帰った。


足取りは、驚くほどに軽かった。


認めたくないけど、リュウの言葉に励まされた。



彼女の元へ行こう。


一度は、離れたけど、もう一度、僕は彼女の元へ。


あの日の僕の拒絶を、救ってくれたように、僕も彼女を助ける。



好きだから。



片岡さん。


いや…




志保。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る