第60話 どうやら
公園には、丘の隅っこにあるから、落ちる危険のあるところに柵が立っている。
亀井さんは、ベンチを立ち、目の前にある柵に両手をかけて叫んだ。
「僕はもう、自分の都合で人を拒絶しない!!」
「自分のために『拒絶』もしなーーーーーい!!!!!」
嬉しかった。
私が、彼の何かを変えたようで。
8月。
学生なら誰もが喜ぶ夏休み。
私は、亀井さんと、最近新しくできたスイーツのお店に行った。
新しいお店であり、人が多かった。夏休みだから、若い人たちの行列ができていて、テーブルに座って、当店自慢のイチゴシャーベットが来たのは、並んでから30分後のことだった。
「も〜、何で『拒絶』してくんないの〜。おかげで30分も立ちっぱなしだったじゃん」
私は、いつものように彼に憎まれ口を叩く。長い間立ちっぱなしっていう不満もあったけど、何より彼をこうやってイジるのが目的だったし、こういう瞬間がまさに『付き合っている』という実感を湧かせるから、やめられない。
「『拒絶』したら、行けなくなっちゃう人が出てくるだろ?」
そうやって呆れながら応えるところも大好きだ。
「ケチ」
「片岡さんが贅沢なだけだよ」
「いいじゃん別に。てか、むしろ豪遊してる人の方がお金持ちに成れるって、テレビか本か何かで見た」
「片岡さん、そういう本読めるの? 意外…。」
「あーっ! 今バカにしたー!」
こんな時間が、ずっと続けばいいのにな。
そろそろなんじゃないか。
『魅了』の効果が切れるのは。
すると突然、彼が私のやや左を見て、誰かに手を振っていた。私も彼の視線の先に顔を向ける。
そこには、女の子が2人いた。私たちがいるのと同じようなテーブルに。
1人は、髪が長く、クラスでも少し人気のありそうな、明るい感じの女子。
もう1人は…
大人しそうな雰囲気に、もう少し短かったら、男子に間違われそうなくらいのショートカット、丸い輪郭にパチッとした双眸。
そのショートカットの女子が、照れ臭そうに、彼を見る。その後、何か後ろめたい気持ちでも含んでいるような、そんな顔で、私に軽い会釈をした。
胸のあたりが何かに突かれたみたいにチクっとした。彼の方を再び見て「誰?」と半ば睨むように尋ねる。
彼は戸惑うように、そして彼女と同様に後ろめたいような面持ちで応えた。
「ああ、あの、髪の短い人が、藤田くん」
「えっ?」
騙されていたたんだ、そう思った。
第三者として常々登場していた藤田『くん』。その正体は…
女。
女子の方を向くと、その『藤田くん』は照れ臭そうにテーブルの木の木目を凝視するように見つめていた。
どうやら、効果はとっくに切れていたみたいだ。
夢のように楽しい時間が、終わる。
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