第13話 樽本結衣
夏休み中は、部活が終わった後、必ずと言っていいほど、樽本さんと帰った。家の方向がたまたま同じという理由で、5月ごろから、向こうが誘ってきて、それからはいつも一緒に帰っていた。
「今日も暑いですね〜。干物になっちゃいますよ〜」
「干物って、大げさだな」
間延びしたような口調で、真夏の暑さに物申す彼女に苦笑まじりの返答を返す。
「明日は休みですけど、また明後日から練習だなんて、ありえないっす。練習緩いって聞いたから入ったのにぃ」
「今年から顧問が代わったからね、しょうがないよ」
十分に暑さを感じながら、青い空に浮かんだ、白く輝く炎天下の元凶を見上げながら言う。
「もう、どのみち明後日も練習だし、明日、美味しいもんでも食いに行きましょ!やけ食いってヤツです!」
光り輝く太陽に負けないくらいの明るい声で、決意をするような大袈裟な口調だった。僕も面白おかしく、「うん、行こう!」と応じる。
彼女は部活の帰りがけに寄り道をしてアイスを買いに行こうと、よく誘うが、何もない日にご飯に誘われるのは初めてだったから、内心ビックリした。
周りから可愛いと言われる女子はみんな、僕のように人気のない男子を露骨に嫌がると思っていたが、彼女は違っていた。友達が多く明るい男子にはもちろん、静かでおとなしい男子にも優しかった。僕にも。
一年生でレギュラーだから、あぐらをかいていると思っていたが、それは全く違っていて、礼儀正しく、練習も真面目に取り組むような子だった。だから、一年生でレギュラーなのだろう。練習を嫌がってるみたいに言うけど、僕は知っている。部活が始まる30分前に早くグラウンドに来すぎた日、すでに幾らか走ったような顔をした彼女がいたこと。部活が終わって片付けようとしたラダーを、まだ使っていること。
だから僕は、そんな、優しくてひたむきな彼女が本当に好きだった。
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