魔法使いと、魔女と丘
ヒラメキカガヤ
第1章 はじまりはいつもの丘で
第1話 代わり映えのない日常
僕はちっぽけな人間だと思う。
運動も勉強も全くできなくはないけど、どれが得意でもない。本音を言える友達も、恋人もいない。
僕はこのまま、孤独に人知れず歳を取って死ぬだけだと思った。
あの日、彼女に会うまでは。
4月の中頃、2年生の1学期が始まって2週間が経とうとしている。
クラスの中ではたくさんのグループができているが、僕は1人で弁当を食べている。
学年が上がって、クラスの人間も代われば、少しは自分の生活も何らかの変化が期待できると思っていたが、一年生の時と何も変わらず、今こうして1人で弁当の中の生ハムを、箸でつついている。
今年も、去年と同じように過ごすことになりそうだ。
退屈だし、嫌なことはたくさんある。
例えば、次に始まる5限の体育。今日の体育は自由時間だ。体育館の中でバスケをしてもいいし、外でソフトボールやサッカーをやってもいい。友達のいない僕は、体育館で1人隅っこにいる1時間が、家でゲームをしている約3時間より長く感じる。決して大袈裟ではない。
前回の授業も自由時間だった。苦痛で仕方なかったし、そう言うのは早めに連絡してほしい。
そして、今日もひたすら心の中で祈り続ける。
『今日の体育したくない、自由時間はやめて下さい。』
ぼっちに救済を。切実にそう思った。
弁当を食べきって、男子全員が隣のクラスで体操服に着替えにいく。その一団に僕もついて行った。
「今日も楽勝じゃん」
男子の1人が嬉しそうな声を上げる。僕に言わせれば「今日も勘弁してくれ」だ。
着替えの教室に入る前、どこかに行っていたらしい学級委員長の富永くんが口を開く。
「今日の体育、自由時間じゃないらしい。前の時間に岡島先生が間違えて予告したってよ」
それを聞いた男子たちは、目を見開いた。はあっ⁉︎、とか、岡島マジだりいわ、ざけんな岡島ぁ〜!、って言う声たちを聞きながら僕は、やっぱりな、と思った。
前もって自由時間だと教えてくれれば、僕の『チカラ』は通用する。
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