美味しくない料理の作り方

宮草はつか

美味しくない料理の作り方

思い出のパンモドキ

 あれは、私が一人暮らしをしていた学生時代。


 朝起きて、朝食を食べようとした私は、昨晩米を炊いていないことに気付く。

 パンもない。麺類もない。主食である炭水化物がない。

 あるのは、小麦粉だけ。

 そんな状況でよく作っていたのが、「パンモドキ」である。


 作り方は簡単。


①適量の小麦粉と、適量の水を入れて、ドロドロするくらい混ぜる。


②グラタン皿のような耐熱皿に①を入れ、オーブントースターで焼けるまで焼く。


 これで、今日の主食「パンモドキ」が完成する。


 ちなみに、パンモドキというのは、私が考えた名前だ。

 パンとは言い難い小麦粉の塊なので、「モドキ」が付いている。

 

 そして、この「パンモドキ」の最大の特徴は、幾通りものアレンジができるという点だ。


 水の代わりに牛乳を入れたり、卵を加えることもできる。牛乳を入れるとしっとりして、卵を入れるとふっくらする。もちろん、両方入れることもできる。


 また、さまざまな食材をトッピングすることもできる。

 定番は、レーズンやプレーンなどのドライフルーツ。牛乳生地にはチョコレートやあんこ。卵生地にはチーズやウインナーを入れていた。

 極めつけは、残ったカレー。入れて焼くと、「カレーパンモドキ」ができる。


 ちなみに、トッピングは焼く前にするのだが、具材は必ず生地の中へ沈み込ませる。オーブントースターで焼いていると、具材が焦げてしまうからだ。



 さて、そんな私の学生時代の思い出の味を、久し振りに作ってみることにした。


 今回は、小麦粉と牛乳を生地に、トッピングはレーズンを入れてみる。

 家にオーブントースターがないので、オーブンで焼くことにした。


 生地をグラタン皿に入れて、オーブンで10分。開けて確認すると、焼けているのか微妙だったため、スプーンでつついてもう3分。


 そして、完成した「パンモドキ」。


 皿の中で、膨らむこともなく固まっている、パンとは言い難い白い塊。


 さて、気になるその味は……。


 美味しい、レーズンが。

 

 ちなみにこの「パンモドキ」は、学生時代、私の食卓によく登場したが、決して他人には食べさせなかった。教えることもなかった。

 おそらくこの先も、誰にも作って食べさせてあげることはないだろう。


 そんな私の、私だけの、思い出の美味しくない料理。


 「パンモドキ」ごちそうさまでした。



 p.s.明日も食べよう♪

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