【2】



年月はあっという間に過ぎ、じき成人になる僕はため息を吐くことが多くなった。


成人してしまったら、もう…



「あ。」


バルコニーからテテの姿を見つけた僕は、急いでテテを追いかけた。


テテの顔を見たい。


テテと話したい。


だってもうすぐそれも出来なくなってしまう。



追いかけたテテの行き先は洗濯物のシーツが沢山干された場所で、一瞬テテを見失う。焦る気持ちでテテを探していると風が吹き、揺れたシーツの間にテテを見つけた。


嬉しくて名前を呼ぼうとした僕が見たのは、笑うテテと後ろ姿の女の人。テテが女の人の頬に触れ、ゆっくりと顔を近付けて…



僕は走り出した。それ以上二人を見ていられなかったから。




気付いたら、テテと初めて出会った花園に来ていた。お母さんを思い悲しくなるから、この場所はあれ以来訪れていない。


ベンチに座り青い薔薇を眺める。もう顔もぼんやりとしか思い出せないのに、青い薔薇は僕を悲しくさせた。



ガサッ―




音なんてたてずに行動出来るくせに、わざと気付かせるためにテテは音をたてる。


「月が綺麗だね。」



ああ、もうそんな時間なんだね。


テテが隣に座り、二人で空を見上げれば、黄金の月と橙色の月が仲良く浮かんでいる。テテの瞳と僕の瞳によく似た色のお月様。



思えば今日までいろんなことがあった。出来事の大半は悲しいことや嫌なことだったけど、何時だってそんな時は、必ずテテが現れて、僕の心に安らぎをくれたよね。



僕達は何を話すでもなく、月を眺めて過ごした。







明かりの消えた寝室で、ベッドに横になって目を閉じれば、テテの顔が浮かぶ。


月を見上げる横顔、僕に向ける眼差し。


別れ際、何かを言いかけた唇…



テテは何を言いかけたの?

僕はそれが知りたい。








誰かに見咎められるのが煩わしくてエロマニアを使い、テテの居そうな場所へ急ぐ。この時間、テテが居るのは――ズバリお風呂だ!



城で働く人達が使うお風呂に違いない。


神様、どうかテテがお風呂に入ってますように。いい感じのアレがソレしてますように。切に切に願います。


エロマニアを最強にし、息を殺し、音も無く扉を開けいざお風呂場へ!



「そこか!」



鋭いテテの声と同時に、もうもうと立ち込める湯気の向こうからナイフが飛来する。



「!」



ナイフは僕の腕に突き刺さった。



「…アローナ!?」



ものっっすごいビックリ顔のテテが見えた。


慌てて僕に駆け寄るテテ。


「さ…すが、テテ。」

「アローナ!!」



僕を抱き起こしたテテの顔は悲壮感が漂っている。


ナイフには毒が塗ってあったから。



「…アローナ、どうして…。」



どうしてって言いたいのは僕の方。なんで、なんでテテはちゃっかりバスローブ着てるの?なんでそんなに用意周到なの?なんなの?乳首NGなの?せめて腰巻きタオルで来いや。乳首見せろ。



「許、さ…な…」


「ああ。許さないくていい。だから、だから…」



頬に温かな何かが落ちた気がした。


もう目が見えない。


僕は、僕は…バスローブの貴様を許さ…な…




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