3.ヒロインに転生しちゃった!≪美羽≫【1】
「―――」
「――」
…話し声…?
「――」
私に話しかけてるの?
誰…?
聞いたことない声。
相手を確かめたいのに、なんだかすごく眠くて…目を開けられな…い……
「知らない天井だ。」
(言ってみたい転生セリフ集より抜粋)を言い続けずいぶん経ったな。
ノロノロと起き、出かける準備をする。
鏡に映る姿を入念にチェック。
「うん、今日もすごく可愛い。」
転生して初めて鏡を見た時は、自分の姿に度肝抜かれたけど、流石にもう慣れた。
顔は申し分ないけど、髪がピンクってどうよ…。
そんな不満も解消された。
だってだって、
なんと私、ゲームのヒロインに転生してたんです!
キャーッ、言っちゃった!
あ、勿論誰にも言ってないよ。電波だと思われるでしょ?
入学式の時、生徒会長を見て思った。
あれ?この人知ってるって。
そしたら他にも知ってる人が居て確信したよ。
ああ、ここって《plantae》恋の緑化大作戦~君で光合成~っていう乙女ゲームの世界なんだと。
総てが一緒ってわけじゃないけど、まぁ、そんなもんでしょ?ゲーム転生って。
ラノベの主人公も、ゲームと違う、こんなの知らない!みたいに戸惑ったりしてたしね。
「美羽ちゃん、朝ご飯出来たわよー。」
階下からお母さんの声。
階段を降りれば、朝食の良い香り。
グウ~~ッ
お腹は減っている。減っているが
「今日はいらない。いつもより早く行かなきゃダメなの。」
「もうっ、そういうのは早く言いなさいっ。おにぎりでも作る?」
「ううん、いい。じゃあ行ってきまーす。」
早く行かなきゃってのは嘘。朝食抜いて少しでも倒れる確率をあげるためよ!
そりゃ、わざと倒れることも出来るよ。だって私、演技派ヒロインだもん、うふふ。
今日は倒れてお姫様抱っこイベの日だから、朝食抜いて、顔色もちょっと悪い感じにして、いっぱい心配させるんだから。
あ~楽しみっ!
今日のイベ相手、萩原君の目の前でフラッとすれば
「美羽ッ」
焦った声で抱き上げてくれた。
キャーっ、お姫様抱っこ!そのまま保健室へ。
都合の良いことに保健室には誰も居なくて、萩原君と二人きり。
キャッホゥッ!
内心の乱舞はおくびにも出さず、寝た振り。
ベッドに横たわる私の髪に触れ、頬に触れる萩原君。
それはまるで宝物に触れるよう。
「少し顔色悪い、かな…。」
私の唇をなぞる指
「…美羽。朝飯はちゃんと食べないと駄目だよ。」
え、朝食抜いたのバレてる!?
「…美羽。」
ギシリとベッドが軋み、萩原君が私を見下ろしてるのが分かる。
キス?ねえキス?してもいいのよ、うふふ。したいでしょ?
ほらほら、遠慮せず可愛い私にキスしちゃいなさいよ。
徐々に萩原君の顔が近づき息のかかる距離に…
あ~、萩原君の唇はどんな感触だろう。
わくわくしながら待ってたのに、顔が離れていく。
えーっ、しないの!?ここまできたらしなさいよっ!しないとかバカじゃないの!?このヘタレがッ!
「…ゆっくり休んで。」
ヘタレは私の頬に触れ、保健室を後にした。
チッ。萩原君の唇はお預けか…。
いつの間にか眠ってしまい、気付いたら放課後だった。
授業サボっちゃったけど、まぁいっか。
教室に行くと萩原君がぽつんと一人きりで待って居て、赤紫の瞳が探るようにじっと見つめてくる。
「体調は?」
「もう大丈夫。萩原君、保健室まで運んでくれてありがとう。えと、重かったでしょ?ごめんね。」
「…重くない。…朝飯は抜いたら駄目だ。」
「うっ、ごめんなさい。気を付けるね。萩原君にも迷惑かけちゃ悪いもんね。」
「迷惑なんかじゃ…。」
「ほんとに?…美羽、ドジだし、萩原君に迷惑ばかりかけてるから、嫌われちゃうかなって…」
ヒロイン力を発揮させ、萩原君を見つめる。
「…美羽。」
萩原君の瞳の奥で何かが揺らめいた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。