百合小説掌篇集

小口美濃

第1話 女子大写真サークル

S女子大の写真サークルに所属する2年生、青野麻由香はこの頃ちょっとドキドキしている。サークルの新入生として、数人の可愛い後輩ができたからだ。

写真の技術や知識の向上、という以上のものがサークルにはある。麻由香も1年前、上級生にこっそり問われた。

「誰に撮られたい? あと、誰を撮りたい?」

すぐには恥ずかしくて答えられなかった。経験はなくても、撮る、撮られる、という関係は性的なものだと直観したのだ。

「美緒ちゃんとか、どう? もし恥ずかしいのなら、サークルとして勝手に設定したことにするから」

美緒というのは麻由香と同じ1年生だった。丸顔で黒髪セミロングが似合うアイドル顔。撮りたい、ととっさに麻由香は思った。何も知らなさそうな美緒にシャッター音を浴びせたい。

「撮ってみたいです」

真っ赤になって上級生に答えたものだった。

びっくりしたのは撮影の衣装までサークルが面倒をみてくれたこと。上級生たちの下心は見えみえだ。麻由香に撮られて高まってしまう美緒の姿を見たいのだ。美緒を撮りながら欲情に溺れて行く麻由香が見たいのだ。

上級生たちは麻由香に尋ねた。

「美緒ちゃんにどんな服を着させて撮りたい?」

麻由香はもう、正直に答えた。

「セーラー服がいいです。あと、テニスウェア」

恥ずかしい。美緒のそうした姿を撮影し、自慰をする、と告白しているようなもの。


撮影会は部室で行われた。数人の上級生が見守る中、麻由香はセーラー服姿の美緒にファインダーを向け、シャッターを切り続けた。「可愛い」と声をかけ続け、体勢の指示を与え続けた。角度によっては美緒のスカートの奥が覗けた。薄いグレーのショーツをも、麻由香は何枚かの写真に収めた。

美緒の目が次第に濡れ始める。

「休憩しようか」

声をかけたのは上級生の一人だった。

上級生たちが、スカート越しに自分の太ももを掌でさすったり内ももを擦り合わせたりしているのに、麻由香は気づいていた。

「ちょっとトイレ、行ってきます」

美緒がセーラー服の上からカーディガンを羽織って部室を出て行く。上級生たちが好奇の滲んだ笑みを浮かべてそれを見送った。

「美緒ちゃんが何しに行ったか、麻由香ちゃん、わかるでしょう?」

そう問われても、麻由香はとても想像していることを答えられない。

「麻由香ちゃんの乗せ方が上手いから、美緒ちゃん、もう堪らなくなっちゃったみたい。カメラ酔い、って聞いたことあるでしょう?」

もちろん知っている。美緒が自分の撮影に、そうなってくれたのだろうか。そして今、トイレの個室で一人、恥ずかしい解消行為を行っているのだろうか。


部室のドアが開き、美緒が戻ってきた。少し正気を取り戻した顔つきになっている。

後半の撮影に用意されたのはテニスウェア。ピンクのポロシャツと白いプリーツのスコートだった。 美緒はセーラー服のスカーフを抜き上着を脱ぐ。グレーのブラジャーが形のよい乳房を包んでいる。上級生たちが静まり返っている。ブラジャーはたぶん、さっき麻由香が撮影したショーツと揃いのものだ。

スコートを手に、美緒は一瞬迷った顔をした後、制服のスカートを穿いたままそれを着け、紺のプリーツスカートだけを脱いだ。テニスウェアに白いハイソックス、ローファーという格好になり、それがなんとも愛らしい。

「ソックスやテニスシューズもあるけど、そのままで撮らせて」

麻由香は思わずそうリクエストしていた。

「あの、アンダースコートは…?」

美緒が困ったように尋ねる。

「要らないでしょう?」

上級生の一人がそう答える声が掠れていた。

美緒に体育座りをさせて正面からシャッターを切る。スコートの奥にショーツがのぞいている。ショーツに小さいけれどはっきりと、染みができていた。さすがに麻由香もたまらなくなってきている。スキニーパンツが膝に擦れるたびに声が出そうになる。すぐにでも自分の指で擦り上げたいのを我慢して撮影を続けた。


撮影会は二時間に及んだ。終わった途端、何人かの上級生が交替でトイレに立った。

後日、麻由香が撮った写真のデータを送るよう、サークルの部長から指示された。予想していたことだった。きっと上級生たち全員が共有するのだ。美緒の画像と、それを撮りながら欲情していた麻由香も、性的な対象として扱われるのだ。

予想していないこともあった。画像が、サークル内だけではなく、卒業したOGを介して社会人の女性たちにも流れているというのだ。

そのことを麻由香に教えてくれたのは美緒だった。

「卒業しても、うちのサークルでのお楽しみがみんな、忘れられないんだって。新入生同士で撮った写真は特に人気らしくて。その代わりOGの人たちがカンパしてくれるから、ほら、うちのサークルって妙にお金はあるじゃない」

撮影会の後、麻由香と美緒は月に二、三回セックスする関係になっていた。麻由香も美緒も、男女問わずお互いが初めての相手だった。二人とも一人暮らしなのでどちらかの部屋を訪ねる。すぐに共通の性癖があるのがわかった。裸になるより着衣のままする方が高まるのだ。麻由香の趣味は撮影会でばれていたので、美緒は制服っぽい服やテニスウェアを着けてくれる。美緒は、麻由香がファッション誌に載っているような綺麗めのカジュアルな服を着ると喜んだ。そして最後は、体を離してお互いの自慰行為を見ながら頂点に達するのだ。ショーツを交換して相手のものを穿いて自慰をし合うこともある。麻由香の部屋には美緒が脱いでいったショーツが何枚もあった。一人、それを使って自慰することもあるし、大学に穿いていったときには授業中に妙な感じになってしまい困ったものだった。

自分たちのようにちょっと変態じみてさえいる同性愛に、可愛らしい新入生に目覚めさせるのだ。そんなことばかり、最近の麻由香は考えている。


(一応、完)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る