リアルトラップ

nuru

第1話

「んぁー」


 黒井くろいくろは集中が解け思わず変な声が出てしまった。両親と妹はみんなで夕食を食べに言っている為誰もいない。誰にも聞かれていないためセーフだ。


 なぜ俺だけ家族と外食をしに行かないかというと、高校受験に成功し浮かれていた俺は入学前に終わらしておく課題を何もやっていなかったため急ピッチで終わらしているのである。


 根詰めても効率が悪いと聞いたことがあるし休憩でもするか。今までやっていた数学の課題を閉じ代わりにノートパソコンを開く。


 何時もの様にネットサーフィンをしていると、ふと目に付いた広告があった。


『ホワイトノート』

 ゲームの広告にはそこには可愛い女の子のキャラクターの絵が描かれおり、様々なコンテンツが盛りだくさん! キャラメイクで自分だけのキャラに! 職種によって多種多様な戦闘スタイル! とキャッチコピーが書かれている。


 久しぶりにMMOをやってみるか。前回はゲームにはまりすぎて勉強を全くしていなく高校進学が危うかった。でも、まぁ、今回は大丈夫でしょう。何の根拠もないが自信はある。


 ダウンロードっと。その間に夕食でも買ってくるか。


 部屋着から外に出る用の服に着替える。Tシャツにパーカー下はジーパン。シンプルイズベストだ。母や妹にはダサいと散々言われているがそんな事は関係ない。この前も勝手に服を捨てられ、『その代わりに私が好きな服を入れておきました』という紙が置いてあり自分のクローゼットの服がすべて衣替えされていた事にはさすがに怒りを覚えた。そのためクローゼットには自分が着る服を入れていない。着る服はすべて机に収納している。

 ダサいかもしれないが俺はこれが良いんだ。愚痴を言いながら近くのコンビニに行く。


 思っていたより寒くもう少し温かい格好をして来ればよかったと後悔しながらも今更戻るのもめんどくさいため少し走り気味で移動し体を温める。


 んー、何買おうか。何か安く済むものがないかな。やっぱりコンビニは高いな。


 食べたいものを適当に選び家へ帰る。


 自室に戻った玄はパソコンを見るとダウンロードが完了していた。


 よし、やるか。玄はさっそくゲームを起動する。オープニングムービーを見て期待しているより面白そうだなと思う。スタートを押すとキャラメイクの画面になった。


 職業は色々あるな。何が良いんだろう? ウォーリアにウィッチ、アーチャー…… お、これが良いな。選んだ職業は『忍者』 説明には、操作難易度が高い。戦闘能力は低いが、移動速度が速く気づかれにくい職業である。

 職業を決めたら見た目の編集だ。どんな可愛い女の子にしよう。

 ……あ、性別変えられない。職業によって性別決まるやつか。可愛い女の子にしたかったが、まぁ、仕方ない。性別は男のままで可愛いくするか。


 うーん、こうじゃない。目はもう少し垂れていて…… いや、逆に、でも…… キャラメイクをし直すのに課金をしなくてはいけないらしいから納得のいくキャラを仕上げよう。


 玄は何度も何度も試行錯誤をし遂に満足のいく男の娘こを完成させた。


 これなら。よし、可愛い! 出来上がったは少し小柄で身長が150センチ。日本人らしからぬ銀髪は腰の少し上の高さまで伸びている。そして綺麗に透き通っている赤目。名前はゆき。完璧だ! 最高に可愛い! って、夢中になりすぎたな。


 キャラメイクが終わり早速ゲームを始めよう。今作成したばかりの雪を選択しゲームを始める。

『新しい自分を楽しんでください』

 

 女性のような声が聞こえる。音声を聞き終わった後、彼の意識は暗闇へと沈んだ。



 ◇◇◇◇◇


 起きてー くろにいー ご飯できたよー

 妹の結衣ゆいの声が聞こえる。


 くろ兄ー まだ起きてないの? 部屋に入るよー 


「くろ兄ー 起き…… ど、どうしたの!? てかだれ!?」


 結衣が大きな声が頭に響く。


「んぁー 結衣どうした? 朝からそんな馬鹿みたいに大きな声出して……」


 面白い表情で止まっている結衣を尻目に固まっていた体を背伸びをしてほぐす。時計を見て時間を確認する。時計の針は7時を指している。あー、何かだるいな。


「結衣、先に降りてるからな」


 未だに固まっている結衣に声をかけ二階にある自室から一階の洗面所へ顔を洗いに向かう。だけど、やけに家具が大きく見えるな。


『シャー』

 蛇口をひねり水を出す。流れている水を手ですくう様に水を水を溜め顔を顔をある。


「うー、冷たい」


 髪に水が付いてしまった。ん? なんで髪に水が付くんだ?

 寝ぼけていた頭が段々と目覚めてきた。


「えっ、ど、ど、どうゆうこと!?」


 どこにでもある洗面所の鏡、自分が映るはずのごく普通の鏡。だが、写ったのは自分の顔ではなかった。しかし見たことのない顔でもなかった。鏡に写ったのは理想の女の子。いや、理想にキャラメイクをした男の――『雪』だった。透き通ったような真っ白い肌、光を反射して輝いて見える銀色の髪。綺麗な宝玉―紅玉ルビーのような目。

 これはそうだ、夢を見ているんだ。そうに違いない。それにしても……


「かわいい……」


 とぼけた表情をしているじぶんを見て思わず言ってしまった。


 これはナルシストというのか? だが自分の理想のなのだからそう思ってしまうのも仕方がない。そうだ仕方がない。くだらない言い訳? を考えるよりももっと重大な事を考えないと、なぜこの体になったのか。どうやって戻るか。


 視界にふと何かが入ってくる。


「……ん? うわっ」


 自分の前に半透明でSFチックなディスプレイが表示された。

 そこにはステータスのようなものが表示されていた。


 名前:雪

 レベル:1

 職業:忍者

 スキル:忍術・甲 忍術・影


 えっ、何だこれ…… ステータス画面? 雪のステータスって事か?

 名前とレベルと職業は分かるがスキルってなんだ? スキルの場所を指で触ると詳しい説明が出てきた。


 スキル:忍術・甲

 移動速度10%上昇

 敵に対する物理ダメージ10%上昇


 スキル:忍術・影

 10分間認識を阻害する

 再使用時間20分


 ステータス画面の上部に閉じるボタンがあり押すと視界の右下に移動しアイコンのようなものになった。


 完全にゲームだな。今更だけど俺ってゲームのキャラになっちゃったって事か。ファンタジーな世界に行きたいと思ったことはあったけどこれは予想していなかった。


 どかどかと足音を立てながら結衣が降りリビングへ入っていく音がする。


「お母さん! くろ兄を起こしに部屋を入ったら知らない女の子がいて、対応がくろ兄そっくりだったから多分だけどくろ兄が女の子になってる! どうしよう!!」


 結衣が母親に状況を的確に説明をし始めた。母親は何を言っているの? ついに娘の頭が狂ってしまったのか…… どこで教育を間違えたのかしら…… と嘆いている。

 俺も母親と同じ立場であればそう考えるかもしれない、が現実に起こっていることは妹の推理力と妄想力によって導き出された答えが合っている為素直に驚いた。


 母親がバカなことを言ってないでお兄ちゃんを起こしてきなさい! と言い結衣をリビングから出した。


 リビングから追い出された結衣は洗面所にいる玄を発見する。


「くろ兄も何とか言ってよ!」


 雪の体になってだぼだぼになった服の袖を引っ張ってリビングまで連れ行く。


「ほら! お母さん見て! 女の子になってるでしょ!」


 母親は娘が知らない女の子を連れてきたので驚きのあまりたどたどしい言葉使いになった。


「だ、だれ?」

「だからくろ兄だって、なんで分からないの?」


 なんで分からないの? ってなんで結衣は分かるんだろうな?


「いや、普通ここまで変わっていたら気づかないだろ」


 玄はつい、結衣にツッコみを入れた。


「そうかな? でも状況が普通じゃないんだから対応も普通じゃおかしいでしょ」


 まさか、結衣に……

「結衣に論破されるとは……」


 なんでそんなショックを受けてるの! 結衣がぷんすか怒っているとみていた母親がしゃべり始めた。


「本当に玄なの…… そう、今日から学校なんだから遅れないようにね」


 ……えっ リアクションはそれだけですか。もっとこう戸惑ったり何かあるでしょう?


「何してるの。高校生活の初日から遅刻なんてダメよ」


 あ、はい。


 玄は素直にうなずく。実際に高校デビューの初日に遅刻するのは悪目立ちしてしまうと考え朝食の食パンを食べることにする。時計を見ると時刻は7時30分、あと30分くらいは余裕があるな。


 何時もの調子でパンを頬張ると口の中がパンパンになってしまった。


「ハムスターみたい! かわいい!」

「はいはい、結衣も早く食べないと遅刻するよ」


 姿は変わったがいつもと同じように話してパンを食べ終わる。どこかに行っていた母親がリビングの扉から戻ってきた。


「玄、あなたの服はどれがいいかしら?」


 戻ってきた母親は可愛らしい女の子の服がたくさん抱えきれないくらい持ってきた。


「どれがいいってどういうことだ?」

「そのままの意味よ。あなたが着る服よ。あなたの高校は私服登校なんだから ……これなんかどうかしら? とても可愛らしく似合うと思うのだけど」


 母親の手にある膝上5センチのふりふりなスカートを見て玄は言う。


「お母さん! そんなの着れるわけないじゃないか!」

「なんで……?」

「なんでって俺は男だからだよ」

「でも今は女の子なのでしょ? そんな可愛らしいのだし」

「見た目はこうだけど今も男だよ!」

「あら? 男の娘だったのね。気づかなくてごめんさい。じゃあスカートでなくこの服はどうかしら?」 


 ズボンではあったが決して男が着るような服ではなくフリフリが大量についている服であった。


「だからそんな服は着ない!」

「えー 似合うと思うのに…… ね、結衣ちゃんもそう思うでしょ」

「うん! スカートの方がいいと思うよ!」


 結衣と母親がこの組み合わせはどおかしら? くろ兄は可愛い系だからこっちのふわっとしている服の方がいいんじゃないかな? ほら可愛いかも! そうね、可愛い感じの服が似合いそうね。なら――


 二人が盛り上がっている間にそそくさとリビングを出て自室に戻り学校へ行く準備を始めた。着ていく服は何時もの服を着たのだが身長が縮まっている為たぼたぼになってしまった。


 どうするか…… 母親か結衣に相談したらスカートとか履かされそうだし仕方ない、ジーンズの裾を折って長さを調節するか。上もだぼだぼのTシャツの袖を折って調節した。


 他に持っていくものあったっけ? あ、数学の課題…… 全然やってない! どうしよう。まぁ、いいか。今更何もできないし怒られたらそれまでだ。


 時計を見てみると7時50分をさしている。


 余裕をもってそろそろ出るか。玄関に向かうと母親と妹が仁王立ちで立っていた。


「な、なに。もう行きたいんだけど……」


 その言葉にむっとした二人は手に持っている服を掲げ言う。

「「どっちの服が可愛い!?」」


 どっちって……


 母親が掲げている服はメイド服のようなふりふりが大量についた服。

 結衣が掲げている服は白を基調としたワンピース。


「どっちもいやだ」


 二人とも観念したような表情をする。


「わかったわ。ならこの服を着てきなさい。さすがにその恰好は変よ」


 母親が新たに持ち出してきたのはジーパンと白のTシャツと黒のパーカー。

 普通の服もあるのか…… 俺もさすがに今の恰好は少し恥ずかしかったので良かった。


「まぁ、それなら着る」


 母親から受け取り自室で着替えることにする。

 今着ている服を全部脱いで下着だけになる。


 うー、寒い。4月になってもまだ寒いな。……ぶるっ 本当に寒い。というか悪寒がするんだが……


 ドアの方を見るとドアの隙間から覗き込む結衣の影がある。


「何やってるの、結衣」

「何って、くろ兄の生着替えをみてるの」

「廊下で寒くないのか?」

「寒いに決まってるよ!」

「ならそんなとこころに居なきゃいいのに」

「部屋に入って来いって?」

「そういう意味じゃない」

「じゃあ遠慮なく」

「話を聞いて、入ってくんな!」

「いいじゃない」


 結衣は下着姿の玄のお腹を指でなぞる。


「っひ!」


 冷たい指が肌に触れ思わず声が出た。


「可愛いらしい声出して…… すごい! 肌がすべすべ! いいな。ずっと触ってられる」

「ゆ、結衣。くすぐったいからやめて……!」


 離れたくても結衣が覆いかぶさるようにして抱き着いている為振りほどく事が出来ない。


「すりすりー」

「ひゃっ! あっ、んっ んん! はぁ、はぁ、や、やめて……」


 体を触られることがとてもくすぐったく感じる。


 頬を赤く染め息を切らしている玄を見た結衣は

「……えっろ」


「おい結衣。着替えるから出てろ」


 久しぶりに怒っている玄を見て結衣はやばいと感じ逃げる様に部屋を出る。


「はぁ……」


 姿が変わったのに受け入れてくれるのはありがたいけど、あんなフリフリの服を着るのは嫌だ。無駄な時間を使ってしまったな。今は何時だ?

 時計を見ると8時5分


 ヤバイ、時間がない。急いで着替えないと。

 急いで服を来て鞄を持ち玄関に向かう。

 またしても母親が玄関の前に立っている。


「こんどはなに? 時間がないから早くして?」

「気を付けるのよ。可愛らしいのだから何か犯罪に巻き込まれるかもしれないわよ。何かあったら直ぐに助けを呼ぶのよ。わかった」

「あー、はいはい。じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」

「あ、もう行くのくろ兄ー、いってらっしゃーい」


 いや、結衣も早くしろよ。遅れるぞー そう言って家を出る。


 時間がないし走っていくか。それにしても外は寒いな。フードを被っていくか。


 結衣は急いで出て行った玄を見て母親に訪ねる。


「いいのお母さん。くろ兄ー全然気づいてなかったけど」

「いいのよ」

「でも、気づいたら怒ると思うよ」

「でも似合っているからいいじゃない。猫耳パーカー」


 いいのかな? 絶対に怒られる気がするなぁ。可愛らしい猫耳をつけて走っている玄は可愛らしいだろうな。あ、私も時間がないし準備しよ。帰ってきた時に真っ赤な顔をして怒ってきそうだけど、怒られたらそれまでだね。

 さすが血のつながった兄妹、考えかたが同じであった。



 急がないと遅刻する。あと何分だ? 腕に付けている時計を見て時間を確認する。

 あと五分で遅刻だ。急がないと…… この道を通っていけば近道になるかも。そう考え細い裏路地に入っていく。

 えっと学校があっち方面だからここを右に曲がって、真っすぐ行って、その突き当りを左、そしてその次を右……いや左? ってあれ? ここ何処だ?

 急がば回れとはよく言ったものだ。近道をしようとしたばかりに道に迷ってしまった。腕時計をもう一度見るともう登校すべき時間は過ぎていた。

 はぁ、もう遅刻確定だし急がなくていいか。学校に連絡をしておこう。

 玄はそう考え学校に連絡をし走って疲れた体を休ませながら感覚で学校であろう方向に歩いていく。

 十分ぐらい歩いたが全然、学校に付かない。どうしようか……


「おい、そこのやつ」


 不意に後ろから声をかけられた。

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