人生の分岐点に待っているものは

ちびまるフォイ

すみません、担当のものが違うもので…

「危ない!!」


どこからか聞こえたその声に反応して見上げると、

空から落ちてきた鉄骨がすぐ目の前に迫っていた。


一瞬で目の前が真っ暗になり、自分自身が立っていた。


「やぁ、今日お前は人生の分岐点に到達した」


「俺が……俺にしゃべってる……?」


「私は人生をつかさどる神。ツイッターでは『まさゆき』というアカウントだ。

 今日はお前にこの先の人生の分岐点を示しに来た」


「人生の分岐点?」


「ひとつ、何不自由ない最高の生活が訪れるが

 歳をとるにつれてどんどん不幸になっていく人生」


「ひとつ、今は不幸のどん底だが

 歳をとるにつれてどんどん幸せになっていく人生。

 さぁ、お前はどっちを選ぶ」


「半分に割って、ちょうどよくすることはできないんですか」

「パンじゃねぇぞ」


「うーーーーーーん……」


ぐるぐると頭の中では今朝家の鍵を閉めてきたかどうか思い出していた。

そして導き出された結論は。


「今を幸せにしてください!!」


「いいだろう。だが、どうしてそっちを選んだんだ?」


「歳をとれば体も動かなくなるし、楽しめる娯楽も少なくなる。

 だから、一番楽しめて遊べる今を大事にすべきだと思ったんだ」


「いいだろう。では人生の分岐点をはじめよう」


まばゆい光に目がくらんだかと思ったら、病院で目を覚ました。


「ああ、やっと目が覚めましたか。鉄骨につぶされて生死の境をさまよっていたんですよ」


「それじゃあ、さっきのは夢だったのか……」


「それと、あなたが眠っている間に宝くじを10個まとめて当選して

 起きたら連絡が欲しいと言っていましたよ」


「10個!?」


新しく目覚めた世界は何もかもがらりと変わっていた。

宝くじの連続当選でお金は心配なくなり、仕事も辞めた。


不思議と異性にもモテるようになり、同性の友達だって増えた。

毎日飲みまくりの乱痴気騒ぎでまさに幸せの絶頂。


「あはははは!! 今が幸せって、最高――!!」


やっぱりこっちの分岐点を選んでよかった。

心からそう思う。


病院でも持て余すほどの幸運でケガは急速回復。


「驚きました。全治1年はかかると思ったのに3日で治るなんて……!」


「先生、これで退院できますか?」


「え、ええ……そうですね」


目を点にしていた先生だったが、院内の呼び出して再び表情が変わった。


『黒雄先生、黒雄先生。205号室の佐藤さんへ急いでください』


先生は慌てて走っていった。

なにかあるのかとヤジウマ根性で俺もついていった。


病室には家族に囲まれているどっかのおじいちゃんが寝ていた。


「みんな……来てくれたのか……」


「おじいちゃん、死なないで!」

「もうお年玉がもらえないなんて嫌だよ!」


「こうして息子夫婦と孫に囲まれて……みんなに求められて……。 

 わしの生涯いっぺんの悔いなし……じゃ……」



ピーー……。



「おじいちゃーーん!!」


「……お亡くなりになりました。お悔やみ申し上げます」


わんわん泣く他人の家族を後ろから見ていて、ふと冷静になった。



――俺はどうなるのだろう。



分岐点の契約から今は最高に幸せになっているが、

きっと老後は本当にみじめで情けなくて寂しい最後になるんだろう。


怖い。

怖い。

怖い。


今、俺にキャイキャイ寄ってくる女も死ぬときにはいないだろう。

財産だって残ってないし、看取ってくれる人もいやしない。


それどころか、病院で死ねるかもわからない。


「もしかして……俺は分岐点の選択を間違えたのか……!?」


終わり良ければ総て良し。

なのに、俺は最初だけ良いようにしてしまった。


今からどうあがいたところで、日に日に不幸になるから

死ぬときには現在のあがきも幸福貯金もなくなっている。


「いやだーー! ただでさえ死ぬっていう不幸が待っているのに

 そのうえ不幸が上乗せされる老後なんて絶対嫌だ――!」


なんとかできないものか。

必死に考えを巡らせていると、最初の分岐点のきっかけを思い出した。


「そうだ。そういえば、分岐点が訪れたのは

 俺が死地をさまようような時だった。

 だったらもう一度同じくらい死地をさまよえばきっと分岐点は来る!!」


そして、今度は別の分岐点「老いるほど幸せ」を選ぼう。

そうすればプラスマイナスで相殺されて、普通に戻る。


でも、すでに俺はお金を持っているから

分岐点が訪れる前よりはずっと幸せな生活を維持できる。完璧だ。


「よし、やるぞ……!」


自宅で薬を大量に飲んで自殺しようとする。

しかし、今の自分は最大級に幸福なため、そうそう死が近づく不幸まで落ちられない。


首を吊ればロープが切れるし、練炭たけば火が消える。


「ええい! 今だけは邪魔するなよ! こうなったら……!!」


幸福の妨害でも邪魔できないようにするしかない。

台所から包丁を持ってきて、思い切り心臓に突き刺した。


「ぐあああ! い、痛い……! 意識が……もう……」


だくだくと流れる血を眺めながら、早く分岐点が訪れないかと待っていた。

けれど分岐点は訪れない。


「うそ……まさかこのまま……い、いやだ……」




一瞬で目の前が真っ暗になり、目の前には自分が立っていた。


「来た来た来たーー!! やった! ついに分岐点に到着した!!」


「私は人生をつかさどる神。今はお前の体を借りて顕現している」


「ええ、知ってますよ! 知ってますとも! お待ちしてました!!」


「お前にはこの先の人生の分岐点が2つある。

 この先、どちらの人生を選ぶのか――」


「老後になるほど幸福な人生で!!」


食い気味に答えた。

もうそれ以外の選択肢なんてない。


「なに?」


「聞こえなかったんですか!?

 歳をとるほど幸せになる人生ですよ!

 俺はそっちを選びます! そのために来たんですから!」


目の前に立つ神は顔を曇らせた。




「いや、私は

 "この先、刺激的なことばかり起きる人生"か

 "この先、安定的なことしか起きない人生"のどちらか確認しにきた。

 歳をとるほど幸福? そんなのはない、この2つから選ぶのだ」

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