ゼウシュトルム
一方、アテネヴァレットと同様に大空を浮遊するゼウシュトルムは、聖寮の上空から縦横無尽に飛び回り、右手に持つライフル型のマシンガンを発砲しながら他の四機を援護していた。
「随分と数が少ないこった! だけど、同情はしない!」
そのコクピット内でリンド・トゥーガルアは目の先に存在する複数のディルオスに向けてマシンガンを発砲し、撃墜させていく。
だが、そのうちの一体が右肩にかけたミサイルランチャーを構えて四発のミサイルを一斉発射させ、目標へと誘導される。
「!」
リンドは誘導されたミサイルが自身に向けられていることを知ると、ゼウシュトルムの両肩に搭載された機関銃で対応し、次々と撃ち落としていった。
その隙を狙った別のディルオスがスラスターを噴射させて上空に飛び、ゼウシュトルムに近づいていく。そのまま右手に持つバトルアックスで斬りかかろうとするが、その直前にリンドがゼウシュトルムの背中から引き抜いた実体剣で刃先をガードした。
「舐めるな!」
リンドはゼウシュトルムの右足をディルオスの胴体部に蹴り込ませ、そのまま自身を引き剥がした。その衝撃で距離が開いたディルオスは姿勢を立て直し、あらかじめ下方に待機していたフライトベースに跨ると即座に態勢を整え、再びゼウシュトルムへと進み出す。
だが、それを予見していたリンドは左手にある実体剣を振り出し、なんと剣先が飛び出し始める。さらには直刀部分も伸び、まるでしなるかのように長い鞭の形状へと姿を変えた。
『!?』
いきなり剣の形状が変化したことにディルオスは驚くが、コケ脅しだと言い聞かせて直進していく。さらにはマシンガンを発砲させるが、ゼウシュトルムが振り払う〝蛇腹剣〟によって、全ての弾丸を撃ち落としてされる。
今度はその剣先が獲物を狙う蛇のごとくまっすぐに伸び、ディルオスの右手に持つマシンガンに絡みつく。
リンドがニヤリと怪しい笑みを浮かべると柄から電気が迸り、その先端に絡みついたマシンガンに電撃が走る。ディルオスが瞬時にマシンガンを手放すと、その電撃をまともに喰らったマシンガンは爆散した。
一方、そのディルオスは咄嗟に突き出した左腕のシールドで身を守り、フライトベースを移動させて再びゼウシュトルムとの距離を開かせた。
『クソッ……何だ、コイツは!?』
『一旦、態勢を整えて――』
「させるか」
相手に行き着く暇を与えさせないリンドは、ゼウシュトルムの両腰に掛けられた装甲の一部である電磁砲が前面に開かせ、その二門の砲塔から弾丸を撃ち出す。電磁加速された弾丸は目に見えぬ速度で駆け抜けていき、フライトベースに足を着ける二体のディルオスを揃って胴体部を貫かせる。
『!? まさか、やられ――』
遠くから攻撃を受けたことを察したアドヴェンダーは、その理解をした直後に爆破に巻き込まれていった。
また別の一機がそれを脇目で見ていることしかできない中、リンドは電磁砲を元の位置に戻すと、操縦桿を前に倒してスラスターを噴射させ、高速で移動し始める。
それに気づいたディルオスが逃げるかのように移動し始めるが、ゼウシュトルムの加速から逃げられず、徐々に距離を縮めていく。加速から生み出されるそのスピードは戦闘機のそれに近く、レーダーには後ろからものすごい勢いで迫っていくのが見えた。
「何だ、この加速は……!」
距離が縮められないことを知ったディルオスがそのまま後ろに振り向くとすぐそこに敵の姿があり、もはや逃げられないと悟るしかなかった。
そして、敵が降り出すその剣に胴体部を斬られ、そのまま敵が追い抜くと真っ二つに斬られたディルオスはフライトベースから足を離れ、共に爆散していった。
「もういっちょ!」
リンドは機体を反転させ、今度はフライトベースへと突撃をかける。
攻撃手段が少ないフライトベースは、眼の先にいる相手が抗いようのないものだと知って、すぐさま反転させて逃げようとする。
しかし、リンドはそれを逃さず、また加速して距離を詰めるとそのまま実体剣を上に掲げたまま斬りかかった。実体剣の刃先は唐竹割りのごとくフライトベースの中心を斬り、機体を真っ二つに分けるとそのまま爆散した。
もっとも、その直前に中にいたコクピットは斬られずに済んだが、後から来る爆発に巻き込まれ、いずれにしても死ぬことには変わらなかった。
「ハッ、……俺とこのゼウシュトルムから逃げようなんざ、無理に決まってんだよ!」
破竹の勢いで、次々とシュナイダーの空撃隊を墜としていったゼウシュトルム。ディルオスを墜とされ、攻撃力を失ったフライトベースでは太刀打ちすら叶わず、この場を退くしか他にない。巨人を運ぶ鳥がいなくなったこの空にはこの機体と、彼と共に行動するデストメテルしか残っていなかった。
「ん……?」
デストメテルを正面のモニターで捉えたリンドは、見下ろす大地にあるガルヴァス聖寮へと視線を移す。その先から対空迎撃の兵器が飛び交っており、デストメテルは既にその相手をしていたことに彼は察した。
そして、リンドはゼウシュトルムを今いる高度から下げていき、そのままマシンガンを放つ。
『オイ。俺も混ぜてくれよ。一人じゃ荷が重いだろ?』
「……好きにしろ。半分は俺がやる。もう半分はアンタに任せるから」
『おう!』
機銃を含め、聖寮が保有する対空迎撃用の兵器は皇宮と比べて少ないと言われているが、それでも数は多く、無力化するにもシュナイダーで対抗するには、少し手数が必要となる。
それを分かっている上で、レギルはアレンに協力を申し込み、反対にアレンはそれを了承したのである。空という大きなアドヴァンテージを有効に利用しつつ、二人は攻撃を続けるのだった。
薄く、細長い形を持った何かがディルオスの胴体部を両断し、その上半身が宙に浮く。その奥から、赤い何かがちらりと見え、二つに分かれたディルオスはそのまま地面に落ちる。
その周辺には既に何体ものディルオスの残骸が転んでおり、どれも動く気配すらない。さらには機体がすべて一太刀で仕留められていることから、切れ味とその鮮やかさも対峙した機体の性能の高さを表している。
何しろ、その残骸を生み出しているのはたった一体の赤いシュナイダー、へパイスドラグが持つ二つの大剣によるものだからだ。そのへパイスドラグが一歩前に踏み込むと対峙している数機のディルオスが後退る。
「何よ、はじめは粋がっていたのに、今さら怖気着いたの? なら臆病者には、これで十分、よね!」
怯える敵の姿を見て、怒りを込み上げた紅茜はへパイスドラグの両肩から伸びる砲塔を撃ち出す。実体を持たないエネルギー弾が一歩前にいるディルオスに直撃し、爆散させる。さらにその爆発と共に紅茜は背面部のスラスターを噴射して、へパイスドラグを突撃させた。
「たぁああ!」
突撃する勢いにさらに恐れを抱いたディルオスは突進を食い止めようとマシンガンを発砲する。しかし、弾丸はへパイスドラグの装甲に直撃しても致命傷どころか傷一つすら与えられず、スピードも緩むことなく突進し続けていく。
距離を詰めたへパイスドラグはそのまま両手に持つ大剣を振りかざすと、対峙していた一体のディルオスの両腕が斬り落とされ、崩れるかのように仰向けに倒れた。
だが、へパイスドラグは止まらず、右手を横に薙ぎ、そこにいた別のディルオスの胴体部を斬り裂く。そのまま真っ二つに分かれ、地面に転がすとすぐさま左にいる別の機体を捉える。
『ヒィ!? ク、クソ!』
赤く染まった敵に捉えられたディルオスはバトルアックスを手に持ち、一矢報いようと前進してくる。
相手が反撃してくることを悟った紅茜は平静な表情のまま、機体の両手に持つ大剣を構える。バトルアックスが降りかかると、互いの刃物が正面からぶつかる音が二機の間から響いた。
バトルアックスと大剣の刃がぶつかり、ギチギチと食い合ったまま両者の足が止まる。だが、紅茜はへパイスドラグの出力を上げ、機体ごと大剣を押し込んでいく。その出力にディルオスは押し込まれていき、最後は力負けして後ろへと弾かれた。
さらに紅茜は追撃を行い、左手の大剣でバトルアックスを弾き飛ばす。そして、右手の大剣をがら空きとなったディルオスの胸部に斬りつけ、そのまま倒れ込ませた。
「大抵片づけたってところかな。後は……」
今彼女の周囲にはシュナイダーが数機残っている。ただ、どれもここに配属されたディルオスのみであり、味方であるはずのシュナイダーはアレンやリンドの機体を含めて、三機しか見当たらなかった。
その残りの二機は今、彼女達とは別の場所、というより別の階層にいた。
その別の階層、地下を通ずるブリッジでは、地上と同様に戦闘を繰り広げていた。
「ハァッ!」
ポセイドーガの手に持つハルパードの先端がディルオスの頭部に打ち付けられ、鈍器をぶつけられたかのように拉げると、さらに左から振り回し、後方へと弾き飛ばす。弾き飛ばされたディルオスはバランスを崩して倒れ込んだ。
そこに一つの巨人がポセイドーガの後ろから出て来て、倒れ込むディルオスの後方にいる別の同型機へと踏み込む。そのまま一つの閃光が入ると、そのディルオスは右腕を肩ごと失い、無くなった右腕はその脇に落下した。
さらにディルオスが一歩後退ると今度は両脚の関節部を斬られ、両足を失ったままうつぶせになって倒れ込んだ。その後ろにいたアルティメスが右手に持つ実体剣を横に振り払う。
「今のうちに、突入部隊を!」
『了解!』
ポセイドーガの近くに数台の大型車輛が走ってくる。その足元には何やら扉のようなものがあり、車輛がそこに止まると車外にあるドアが開かれ、複数もの武装された兵士が出てきた。その数は有に二十を超える。
どれも顔を隠すかのように対閃光用のゴーグルや身を守るためのプロテクターなど、明らかに重武装であるかが窺える。その中から兵士の一人が前に出てくる。もちろん、この部隊の隊長格である。その彼らが行きつく先は一つしかない。
「これより、ガルヴァス聖寮の内部制圧を実行する! 目的を達成するまで決して、命を粗末にするな! では、諸君の健闘を祈る!」
「「「「「了解!」」」」」
隊長格の命令に後押しされた兵士達はその隊長格を先頭にドアへと前に進む。その脇にあるパスワードにそれを解除させるアイテムを近づけ、解除コードを算出、同時に解除させると、閉ざしていたドアが二枚に開かれる。そのまま兵士達は内部へと突入していった。
「……とりあえず、第二段階までは到達したな」
『ええ』
「さて、本題はここからだ」
「?」
『もうじきレヴィアントからの救援がやってくる頃だからな。一応、アイツらにも声をかけておこう』
「そうね」
ルーヴェとリーラの二人は、その先にある黒い奥行きから来るであろう、その脅威に万全を期して備えるのだった。
一方、紅茜達がいる地上では、三体のシュナイダーの猛攻に対し、聖寮の未だに激しい抵抗が続いていた。
「食らえ!」
へパイスドラグの両肩にある砲塔から撃ち刺される光弾がディルオスを破壊する。さらに胴体部に内蔵された砲塔から高エネルギーのビームが発射され、縦一列に並んでいたシュナイダー部隊をその奔流に飲み込み、次々と爆散していく。
また、空に展開を続けていたアレンとリンドはこれまで通り、聖寮に内蔵された火器を破壊していき、抵抗を無力化させる。次第にディルオスの数も減っていき、もはや風前の灯火であった。
その様を黙って見ていることしかできない指揮官は歯噛みしていた。
「何てザマだ……! たかがテロリストに、たった数機のシュナイダーなんかに圧倒されるなど……!」
「大変です! 内部に侵入者が!」
「何だと!?」
司令官の近くにいたオペレーターから緊急を要する報告が入り、指揮官は更なる窮地へと追い込まれることになる。
その内部では地下のブリッジから侵入した正体不明の部隊に襲撃されていた。その迅速な行動に加え、柔軟な対応に、内部にいた士官らは次々と倒されていき、内部は着々と侵略されていった。
それをモニターで閲覧していた指揮官らは目的がここであることを悟る。
「テロリスト共め! いつの間に……!」
「このままでは、いずれここも……!」
「……分かっている! 救援が来るまで何としても、持ち堪えろ!」
「イエッサー!」
内部からの侵略に焦る司令官。降伏という選択が頭に過るものの、それでも、救援が来るまでの時間を稼ぐために戦い続けることを選んだのだった。
戦場となっている聖寮の後方から飛行する大型の物体。その脇には、数体もの小さな物体も存在していて、それらが向かう先は当然、戦場であった。
その思惑に秘められているのは略奪か、それとも守護か。
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