「車の群れ」と自動運転システム


自動運転を考える時に、自動車という『単体の機械』の制御ではなく、『交通システムとしての自動車全体』を自動化することは大変難しく、また、失敗した時の問題と影響が大きいために、慎重にならざるを得ないのは確かだ。


単純に、自動車というか路面交通には相互作用が非常に多い。


路上の自動運転車両、つまり自律稼働の四輪ロボットは、周辺で動いている存在の密集度が高い上に、全体を見渡して的確な指示を与えてくれる管制官も存在しない状態の中、常に自己判断で動かなければならない。

これは機械単体の複雑さに関係なく、『運用状態の複雑さ』がもたらす課題だといえるだろう。


特に速度の大きな自動車の制御は、単に周辺で動いている物体をリアルタイムに観測し、それぞれの進行方向と速度から数秒後の位置を個別に推定する、というだけでは厳しい。


できれば、周辺の数多くの車の量や移動の傾向から、路上の次の状態について統計的な分析を行い、『群れ』としての動きをシミュレーションしながら、任意の秒数後の位置関係を判断するのが望ましいと思う。



「群れ」と言われると、あまり良いイメージを持たない方が多いかも知れない。


だが、思いのまま自由に走れるのが自家用車の最大の特徴だという印象があるものの、それは思い込みで、(法規を守っている限りでは)その自由度は意外と狭い。


つまり自動車の場合、本当に自由度があるのは「走り方」の方ではなく、いつでも思いのままに『目的地とルートの選び方を変更できる』ことの方なのだ。


そして実際のところ、それは『運転そのもの』とは関係が無い。


大抵のばあい自動車には「走行車線」が決まっていて、その車線内の車は同じ方向に進むことが明確だ。車線内の車は、同じ方向に同程度の速度で進むことで、『同じ空間を僅かな時間差で共有』している群れである。


この移動ベクトルの均質傾向があるからこそ、自動運転のメリットとして良く引き合いに出される「隊列走行」も可能になる。

逆に、前車との車間距離を詰めるドライバーが渋滞を引き起こす原因となるのは、この群れ全体の移動ベクトルの均質性を壊してしまうからだ。


そこで、各々の自動車が近隣の車や道路の周辺インフラとネットワークし、例えば互いの位置関係や加減速の状態などをリアルタイムに知らせ有ったりすれば、かなりの不確定要素を抹消できるだろう。

「群れ」はあくまで「その一瞬」だけを近隣と共有するアドホックなもので十分だ。


走っている車それぞれが自らをその瞬間だけの『群れの一員』として認識して繋がりあい、メッシュネットワークを作成して互いに情報を共有して状況判断しつつ移動していくわけで、歩行者や自転車と繋がるのは難しいが、周囲の状況を共有し合えるだけでも、例えば「死角から飛び出す子供の自転車」といったリスクは激減できるはずだ。


(以前の「路上の自律稼働ロボット」のコラムでも書いたことだが、運転のルールがしっかりしている自動車だからこそ、自動運転や群れ制御がある程度は容易に行えるのであって、好き勝手に歩く歩道の人間や自転車相手では逆に難しい)


車の場合は大容量のバッテリーを搭載しているし、容積にもゆとりがあるので実装は簡単だ。言ってしまえば、現在技術の延長と低遅延の5Gネットワークだけで十分に実現できる。


要は、IoTの文脈でしばしば語られる方法論であるが、このやり方の良いところは、インフラ側にITS(高度交通システム)のような莫大な投資をしなくても済むところだ。

路面にマーカーを埋め込んだり、中央線をきれいに引き直したり、車と通信するためのアンテナや送受信機を路上に設置する手間は、大幅に削減できる。


もちろん、それらもある程度は必要だし、周囲とのネットワーキングに基づく制御は、必ずノイズや切断のリスクに晒される。特に車同士のネットワークで最大の問題は「悪意のあるハッキング」などをどう防ぐかという、セキュリティー対策だろう。


それでも、社会全体としての導入コストは削減できるし、自由度は大幅に上がる。当然ながら過渡期においては自動走行車と手動走行車の混在が著しいはずだが、それも、大きな問題にはならないと思う。

自動走行機能を持っている車の割合が増えれば増えるほど、都市の車はスムーズに流れるようになるから、事故や渋滞もどんどん減らしていけるだろう。


まあ、コンセプトをイメージするのは簡単でも、実現するのは並大抵のことではないが、それは、社会と自動車に今とは違う関係性をもたらすはずだと思う。


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< 日本における自動運転の実現においては、抜本的に考えなければならない問題がある。それは特に速度制限において『法令と実態の乖離が甚だしい』という問題だ。ストレートに言えば、最高速度40キロ制限の空いた道を40キロ以内で走っている人はまずいない。むしろ、いたら邪魔者扱いされたり、場合によっては心ない人物から煽られたりするかもしれない。

この「違法状態がデフォルト」と化している日本の路上で、自動運転車が法令を完全に遵守すると、普及するまでのしばらくの間は、周囲の人々にストレスを生むことだろう。>


< 公道を走れるすべての自動車は登録されているはずなので、ナンバープレートと発信器をセットにするという発想は、そう荒唐無稽ではない。オーウェルの「1984」ばりの監視社会と思う人もいるかも知れないが、すでに現実はそれを越えつつある。>


< 『自動運転はつまらない』という主旨のことを言う方も多いが、大企業の役員のように、運転手付きの車を日常でも使えるようになったら、ほとんどの人はそれを喜ぶだろうと思う。>

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