第58話 戦乱と少女3

 私は十分な食料と水をマジックバッグに確保すると、南へと出発した。


「ピーちゃん、アクア、これは私の問題だから、あなたたちは来なくていいのよ」


 何度もそう言ったが、彼らはそれを聞いているのか聞いていないのか、曖昧な返事しかしなかった。


「う~ん、そうかな~?」

「メグミ、トモダチ」


 ステーロの街でグズグズしていると、引きとめられるのが分かっていたから、誰にも何も言わず街を出た。

 街道を歩くと誰かに見つかりそうなので、道から離れた所を進んでいく。


 幸い、この辺りは木々がまばらで草も低いから、少し歩きにくいだけで、かなり距離が稼げる。

 それに、ヒューさんの情報だと、偵察兵は道がない所に現れているみたいなんだよね。


 新しく買った一人用テントで三泊したころ、周囲の景色が原野に変わった。

 大きな木が生えていない代わりに、あちらこちらに、灌木が固まっている。他は草地だから、遠くまでよく見通せた。


 そして、とうとう騎乗した兵士の姿を見つけた。


 ◇


 兵士は茶褐色の革鎧を着け、背中に剣を背負っていた。

 私に気づくと、馬を走らせ近づいてくる。


「おい、お前、なんでこんな所にいる?」


 兵士は馬の上から、訝し気に私を見た。

 少女が一人、原野の中をうろついている理由が分からなかったのだろう。


「私はメグミ。

 あなた、バーバレスの兵士さん?」


「メグミ?

 どこかで聞いたような名前だな。

 それより、南に向かっている理由を言え」


「私は、バーバレスの王様に会いに行くの」


「……お前、正気か?」


「この通り、私は真面目よ。

 早く王様の所に案内なさい」


「訳が分からないうえ、偉そうな小娘だ。

 剣のさびにしてくれる!」

 

 男の手が剣に掛かった瞬間、ピーちゃんが弾丸のように袋から飛びだした。

 兵士の顔にボーンとぶつかる。


「がっ」


 男が馬から転げ落ちた。

 気を失いかけた男は、しかし、首を左右に振り、意識をはっきりさせようとしている。


「な、何だ一体」


「あなたたちが探しているのは竜騎士でしょ」


「お前、な、何でそのことをっ!」


「私が、竜騎士メグミよ。

 分かったら、さっさと王様の所に連れていきなさい」


「何を言ってる!

 お前が竜騎士のはずがなかろう!」


 どうも、竜騎士が少女だということまでは、伝わってないみたいね。


「ピーちゃん」


 私が言うと、上空で円を描いていたピーちゃんが、男の目の前に降りてきた。


「ド、ドラゴーン。。。」


 ピーちゃんを目の当たりにした男は、気を失ってしまった。

 しょうがないわねえ。


 ◇


 私は愛用の魔道具、携帯用の小型コンロを出し、その上に金属製のマグカップを直接置くと、それに水を入れ沸騰させる。

 お湯にお茶の葉をパラパラ入れ、上に小さな携帯用フライパンを乗せ蓋をする。

 少し待ってお茶を飲む。

 これは、モリアーナ皇帝からもらった高級茶だ。

 香ばしく甘い香りは、少し興奮していた私を冷静にしてくれた。


「う、ううう、こ、ここはどこだ?」


 兵士の意識が戻ったようだ。


「あなた、さっきのこと忘れたの?

 私の友達を見て、驚いて気を失ったのよ」


「お、お前は……そ、それにそれはド、ドラゴン!」 

 

 兵士は、私の膝で丸まっているピーちゃんを指さした。


「ドラゴンじゃなくて、ピーちゃん。

 きちんと名前で呼んでください」


 ちょうどピーちゃんが口を大きく開けてあくびをした。


「ひっ!

 ピ、ピーちゃんさん?!」


 なんか、変な呼び方になってるけど、まあいいわ。

 

「あなた、どうして私の事、探してたの?」


「そ、それは……」


「ピーちゃん、ここのところお腹減ってるのよね」


「メグミー、こんなまずそうなの食べないよ」


 ピーちゃんはそう言ったが、兵士には、その声が唸り声として聞こえているはずだ。


「ひ、ひいいいっ。

 ド、ドラゴンをテイムする方法を調べるためです」


 テイム?

 調教ってことかしら?


「で、それを調べてどうする気なの?」


「我が王は、大陸の統一を目指しています。

 そのためにドラゴンの力を使おうとお考えです」


 どうやら、ヒューさんの予想は当たったようね。

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