第24話 ドラゴンの里と少女5
大洞窟を舞台にした『あて鬼』ならぬ『あてデミリッチ』で、私と子竜たちが疲れて動けなくなった頃、大人の竜がこちらへ戻ってきた。
『ソル・メグミ殿、こちらへおいでください』
疲れているから、あまり動きたくなかっけど、案内役の竜に連れられ、竜王様が座る岩棚の下まで来た。
『失礼します』
一体の竜が私を大きな前足でつかむと、宙に浮く。
あっという間に、岩棚の上に着いた。
高いのが苦手な私は、壁際に下がり、じっとしている。
『ソル・メグミ、こちらへどうぞ』
竜王様が翼で自分の横を指すけれど、それは岩棚のかなり前だから、私には無理だ。
『竜王様、メグミは高いのが苦手なんです』
竜王様と並んだピーちゃんが、そう説明してくれる。
『おかしなことよのう。
人族の習慣かの?』
習慣ではありません、と言いたいが、怖くて目を閉じている私には、その余裕がない。
『しょうがないのう』
竜王様が、後ろ向きで何歩かこちらに下がってくる。
ズシンズシンと岩棚が揺れるので、私は生きた心地がしない。
グゥオオオオッ
こ、ここでその声はダメ!
岩棚が崩れるんじゃないかという心配と、鼓膜が破れそうな音に、私は気を失いかけた。
『みなよく聞け。
ここにいる偉大なるアルポークの息子は、次期竜王と決まった。
よって、今日からドラゴンプリンスとなる!』
グゥオオオオっ
竜たちの声が洞窟に響いた。
『そして、ソルに選ばれたメグミは、ドラゴンロードとなる!』
竜王様は、前足の爪に引っかけているペンダントを私の前に差しだした。
それは淡いピンク色で、アサリのような形をしており、二か所に穴があった。
『まさか、この魔法具を使う時が来ようとはな』
ペンダントがあまりに綺麗だったので、私は怖いのも忘れ、それを手に取った。
『あなたがそれを吹けば、我らが駆けつけましょう』
竜王様はそう言うと、頭を三度下げた。
下にいる竜たちから、ふたたび、すごい声が湧きあがった。
こうして、ピーちゃんはドラゴンプリンス、私はドラゴンロードになった。
◇
次の日、ピーちゃんに案内され、私は子竜たちが生活する『竜の里』に来ていた。
大洞窟からほど近い、山あいの盆地は、なぜかそこだけ豊かに木々が茂っていた。
しかも、その木は、すごく大きなものが多い。
特に大きな五本の周りには、入れないように柵がしてあった。
「ピーちゃん、あの大きな木は何?」
『ああ、神樹様だね。
父さんの話だと、この世界を守っているらしいよ』
「へえ、すごい木なのね!」
『うん、お話もできるんだよ』
ピーちゃんが言う、お話というのが何か分からなかったが、とにかく巨大な木からは、何かエネルギーのようなものが感じられた。
『メグミおねーちゃん!
来てくれたの?』
『みんなー、メグミお姉ちゃんが来たよー』
『『『わーい!』』』
アッという間に、ちいさなドラゴンたちに取りかこまれる。
『今日も、デミリッチ遊びしてくれる?』
小さなドラゴンが、クリクリした目を輝かせ私を見あげる。
「今日は、新しい遊びをしましょう」
『『『わーい!』』』
「新し遊びの名前は、『かくれんぼ』よ」
『かくれんぼ?』
「そう。
私が百まで数えるから、その間にみんなはどこかに隠れるんだよ。
私に見つけられたらその人は負けだね」
『うわー、ワクワクするー!』
『早く早くー!』
「デミリッチ遊びと同じで、空を飛ぶのはナシだよ。
強く叩いたり、火を吹くのもダメ。
分かった?」
『『『分かったー!』』』
声に出して百まで数えると、さっそく子竜たちを探しにかかった。
最初見つけた竜は、一番小さな子で、地面に丸まって石のふりをしている。
可愛い目が、きょろきょろこちらを見ている。
「さあ、どこにいるかな~。
この辺にいそうだな~」
私はわざと周囲を歩いて、その子が十分ワクワクするのを待った。
「あっ!
ここだねっ!
見つけたー!」
『あー、見つかっちゃった!』
「じゃ、お姉ちゃんと一緒に、他の子を探しにいこう」
『うん!』
子竜たちは、最初の子のように地面に丸くなっている者が多く、すぐに見つかったが、私はかならず、「どこかな、どこかな~?」をして、彼らをドキドキさせてあげた。
「残っているのは、誰?」
『『『プリンスー!』』』
最後に残ったのは、ピーちゃんだけのようだ。
私たちは、みんなで手分けしてピーちゃんを探した。
森の中も探したが、なかなか見つからない。
鬼役の私が降参しようかなと思ったとき、ピーちゃんのテレパシーが聞こえてきた。
『メ、メグミー、助けてー!』
◇
ピーちゃんは、木の上にいた。
木の幹に爪を立て、太い枝の上に登ったらしい。
けれど、その太い枝の上には、たくさんの木の枝が張りだしていて、翼を広げる隙間がなかった。
登った時のように爪で木につかまり、降りればいいようなものだが、ドラゴンの体は、そういう動きができないらしい。
みんなが見まもる中、私は木のぼりを始めた。ピーちゃんがいる太い枝に着くと、心細かったのか、ピーちゃんが私の胸に顔を埋めた。
ピーちゃんが落ちつくまで待ち、ピーちゃん袋に彼を入れ、下に降ろす。ピーちゃん袋を吊るヒモには、テントに使っていたものを三本より合わせて使った。
ピーちゃんの救出が終わると、もう日が暮れはじめた。
せっかくだから、大洞窟へ帰る前に神樹様の所へ手を合わせに行く。
五本並んだ大木の前で手を合わせていると、身体がぽかぽかしはじめた。
首から吊るしていた、ピンクのペンダントが、胸の所でうっすらと光っている。
『そこな少女よ、我が声が聞こえるか』
すごくゆっくりしたその声は、神樹様のものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます