Re:ウォーズ

土塊ゴーレム

新時代の戦争

 新暦215年、世界は戦火の炎に包まれていた。


 だが、人と人同士が争っていたのは、昔の話。人はロボットを用いた近代的な戦争をする様になった。


 ―ボタン1つ押せばミサイルが飛び、敵国を燃やす。

 ―自立した兵器たちが、町を、国を滅ぼして行く。


 この戦場に人が入る隙間など無かった。


 人は暖かい部屋でコーヒーでも飲みながら、タブレットを弄れば戦争が終わる。それがこの時代の戦争と呼ばれるものであった。


 そして、必然的に各国の軍は縮小、解体。

 

 ロボットが国を攻撃し、ロボットが防衛する、そんな戦争が無意味に繰り広げられていた。人は無意味だと気付きながらも、己らの意地や誇りの為にこの戦争を繰り広げていた。







 ガチャ、ガチャとロボット達が隊列を組み、歩を進めている。

 おおよそ二十機前後で人の形をしたモノも居れば、獣の様なモノも居た。


 その様子が広場のスクリーンに映し出されている。別に何かのイベントという訳ではない。


 ――戦争だ。


 この有象無象のロボット達は、戦争をしているのだ。

 もう人と人での戦争は行われない。ルールを決め、ロボット達を操り、戦争をする。これはもう、戦争と呼ばれるモノではなく、ただの娯楽であった。


 それを見て、民衆が歓声をあげる。中にはどちらが勝つか賭けている者もいた。まるでスポーツを見ているかの様に、ロボット達の戦争を眺めている。


 こう言うと、狂っていると思われるかもしれないが、何もこの国に限った話じゃない。


 俺が知っている限りの国はこうしてロボット達に戦争させている。


 世界中で同じような戦いが起こっていると言う事だ。まぁ世界が狂っていると言えなくはないけど。


 俺--アルス・フォードライトはそう思いながらも、他の者と共に広場でスクリーンを眺めていた。


 スクリーンの中で自国であるグスタフのロボット達が、相手国であるドーラのロボットと戦っている。


「アルスさまはどちらが勝つと予想しますか?」


 俺の傍らに居たメイドのセイルが聞いてくる。ポニーテールが特徴的な王宮メイドだ。

 なんとも意地の悪い質問だ。


「王子の俺に聞くことじゃないだろう、それは」


「アルスさまには、観察眼を養ってもらわねば」


「はいはい」


 セイルはいつもこうなのだ。まるで俺を試すような事してくる。

 この質問だって、僕の為によかれと思ってやっているのだろう。


「この戦いはこっちの勝ちだろう。こっちの方が数多いし」


 俺は適当に答えた。

 立場的なことも有るから、こちらが負けるとは言い辛い。

 だから、数がどうとか適当な理由をつけて、こちらが勝つと予想した。


「わたしはドーラ国が勝つと思います」


 セイルは堂々と相手国が勝つと予想した。

 使用人が堂々と王子の前で言う事ではない。


「どうしてそう思うんだ?」


 俺は興味本位で聞いてみた。

 俺は観察眼を養えと言うからには、ちゃんとした理由があるのだろう。


「勘です」

「観察眼は!?」


 つい大声を出してしまった。

 前言撤回だ。セイルは俺の為にこんな質問したのではなく、ただただ俺をからかって遊んでいるのだ。

 非常に迷惑極まりない。


「アルスさま、王子がそのような大声を上げるなどいけませんよ」


「だれのせいだと思ってる……」


 はて?とセイルはとぼける仕草をした。


「お前は、メイドとして自覚があるのか?」


「アルスさまこそ、メイド風情に遊ばれている癖によくそんなデカい顔できますね。尊敬します」

「くっ……」

「俺をからかって楽しいか、セイル?」

「はい!」


 満面の笑みだ。すごくウザい。

 ウザいならクビにすればいいと思うかもしれないがそれは出来ない。


 セイルは父上――まぁつまり国王の直属のメイドだから、王子の俺ではクビにする権限がない。父上に申し出ればクビに出来ると思うが、メイドにからかわれたから~なんて口が裂けても言える訳がない。

 一応、俺にだってメンツやプライドがある。セイルはそれを知っている上でからかってくるのだ。

 ……知らなくても、からかってきそうだけど。


「やっぱり、ドーラ国がまた勝ちそうですね、これは」


 スクリーンに映りだされたドーラのロボットがこちら――グスタフ国のロボットを蹂躙していく。圧倒的だ。

 細身なドーラのロボットが、素早い動きで的確に急所を切り裂いてゆく。

 こちらのロボット達はそれに全く反応出来ていない。

 

 ドーラの科学力はこちらより上だ。この戦争が始まった一年前時点では、戦力も性能も互角だったはずにも関わらずだ。

 しかし、ある日突然、ここまでの圧倒的な差が開いた。忘れもしない二か月前の月の綺麗な夜であった。結局、グスタフはその日を境に一度たりともドーラから黒星を勝ち取ってはいない。


 ――例の組織が技術提供をしたらしいが、真偽は定かではなかった。

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