夕闇に染まるラプラシア城の上空を舞うように、セイジは飛竜を駆った。

 王城では、今も賑やかな宴が続いている。

 眼下に広がる城下町を物憂げに見下ろし、小さく溜息を吐いたセイジの耳に、聞き慣れた少女の声が届いた。


「セイジ、怒っておるのか?」


 その声は機嫌を窺うようでいて、しかしながらどこか不遜な口振りで、セイジに尋ねた。

 だが、当のセイジは少女の声など耳に届いていないように黙したままだ。


「仕方なかろう。お主の魂は妾の管轄下にあったが、お主の想い人の魂までは管轄外だったのじゃ」


 拗ねた子供のように呟くと、声の主は街の上空をゆったりと旋回した。

 不貞腐れる相棒の、鱗に覆われた頭を優しく撫でて、セイジは言う。


「怒ってなどいない。寧ろ感謝している。結ばれることが叶わぬ身とはいえ、こうして彼女と再び巡り合うことができたのだから」



 地平線に沈む筋状の陽の光が逆光になり、セイジの表情は窺い知ることができなかった。

 だが、その言葉に嘘偽りなどないことは、彼女にはお見通しだった。


「では参ろうか、兄君の婚約を祝いに」

「ディートリンデ。相変わらず、きみは祭に目がないな」


 セイジはやれやれと肩を竦ませると、浮かれた様子で鼻歌を歌うディートリンデの手綱を引いて、王城へと向かった。

 陽はすでに落ち暮れて、街には点々と明かりが灯りはじめていた。


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