リンデガルム王国の花嫁

柴咲もも

第1部 竜騎士は少女の幸せを願う

 わたしの一生は、思っていたよりもずっと短いものでした。

 享年六十五歳。娘と孫に看取られて、安らかな最期だったと記憶しています。


 わたしには、はやくに亡くなった夫がおりました。わたしが十七になった年に結婚し、戦争で亡くなったのです。


 夫はとても穏やかで優しいひとでした。当時のような特別な事情がなければ、わたしのような娘が恋をすることさえ憚れるような、わたしには勿体無いほどの素敵なひとでした。


 それでは何故、わたしは夫と夫婦になることができたのか。


 いいえ、夫婦だなんて、とんでもない。

 本当は、わたしがそう思いたかっただけなのです。


 わたしと彼が夫婦として過ごしたのは、たったの一日だけでした。

 彼は十八で特別攻撃隊に配属され、戦場に向かう前日に、国の計らいに寄り、見ず知らずのわたしと結婚させられたのです。


 初めて顔を合わせてただ狼狽えるだけのわたしに、彼は手を触れることもせず、自分の夢の話を聞かせてくれました。


 空を飛びたい、と。


 明日、死んでしまうというのに、晴れ渡る青空を仰いで、最期に夢を叶えられて嬉しいと、彼は言ったのです。

 そして、最期に傍にいてくれたのがきみで良かったと、わたしに言ってくれました。


 その笑顔があまりにも眩しくて、その言葉があまりにも残酷で、わたしは我儘な願いを口にしてしまったのです。


 いつか、貴方と空を飛びたい、と。


 願いが叶うことはなかったけれど、わたしは幸せでした。ただひとつだけ、最期に我儘が許されるなら。


 ——誠治さん、もう一度、貴方に逢いたい。


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