リンデガルム王国の花嫁
柴咲もも
第1部 竜騎士は少女の幸せを願う
◇
わたしの一生は、思っていたよりもずっと短いものでした。
享年六十五歳。娘と孫に看取られて、安らかな最期だったと記憶しています。
わたしには、はやくに亡くなった夫がおりました。わたしが十七になった年に結婚し、戦争で亡くなったのです。
夫はとても穏やかで優しいひとでした。当時のような特別な事情がなければ、わたしのような娘が恋をすることさえ憚れるような、わたしには勿体無いほどの素敵なひとでした。
それでは何故、わたしは夫と夫婦になることができたのか。
いいえ、夫婦だなんて、とんでもない。
本当は、わたしがそう思いたかっただけなのです。
わたしと彼が夫婦として過ごしたのは、たったの一日だけでした。
彼は十八で特別攻撃隊に配属され、戦場に向かう前日に、国の計らいに寄り、見ず知らずのわたしと結婚させられたのです。
初めて顔を合わせてただ狼狽えるだけのわたしに、彼は手を触れることもせず、自分の夢の話を聞かせてくれました。
空を飛びたい、と。
明日、死んでしまうというのに、晴れ渡る青空を仰いで、最期に夢を叶えられて嬉しいと、彼は言ったのです。
そして、最期に傍にいてくれたのがきみで良かったと、わたしに言ってくれました。
その笑顔があまりにも眩しくて、その言葉があまりにも残酷で、わたしは我儘な願いを口にしてしまったのです。
いつか、貴方と空を飛びたい、と。
願いが叶うことはなかったけれど、わたしは幸せでした。ただひとつだけ、最期に我儘が許されるなら。
——誠治さん、もう一度、貴方に逢いたい。
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