卵の黄身
K市に住む千恵ちゃんは、ぼくの従姉妹にあたる人だ。
幼い頃、夏休みだ冬休みだというと、母親の実家があるK市に遊びに行ったものだった。
その家には、ぼくの従姉妹の千恵ちゃん、さらに従兄弟の崇くんと智くんの子どもたち3人と、大人はぼくの母親の兄夫婦2人、そして途中までだが、母の父と母(つまりぼくからしたら祖父母)の7人が暮らしていた。
祖父母が『途中まで』というのは、2人とも病で亡くなってしまったからだ。
ぼくは、この祖父母のことが大好きで、とてもホントに大好きだったので、亡くなってしまった時の衝撃たるや尋常じゃないものがあった。
これはこれでまた別の機会に書くことにする。
その千恵ちゃんは、中学生のとき、不登校になった。
理由はよくわからなかったが、後で母から伝え聞いた話では、いじめられたということだったが、詳しく聞くと、どうやら直接なにか言われたりされたりした訳ではなく、自爆的な要素の排しきれないなんとも微妙な理由だ。
とにかく、学校はたまにしか行かないし、本人も行きにくくなるという悪循環で、ついついほとんど行かないまま卒業して市街の単位制高校に進学した。自分を知っている人がいないから。
母が子どもだった頃は、その学校はとても人数が多かったようだが、千恵ちゃんが中学生の頃はたいしたことはなく、どちらかというと過疎の村の人たちの子どもが通ってくるような、こじんまりとした集団になっていたらしい。
だから、中学校といっても、ほとんどは小学校から知っているような、大変アットホームな雰囲気の学校だったのだ。
そこを、謎の登校拒否(不登校)なのだから、周囲の友達は、どうしたのかと思いを巡らせ、はじめのうちは学校に来れるよういろいろ手を尽くしてくれていたということだった。
しかし、千恵ちゃんの登校拒否の意思が固く、容易に登校しそうもないということが確信に変わり始めると、その支援の手もだんだんと減っていき、ついにはなくなってしまった。
そんな中、ごく稀に登校できることがあり、周囲の友達は歓迎の意思を示して受け入れた。
一度学校に入ってしまえば、特に困難もなく学校はこなせるから、友人たちとの話もできた。
そこで、不登校状態の千恵ちゃんを心配した友人たちは、何が原因で学校に来れないのか、来たくないのかを質問したりしていたが、最後、こんな感じの言葉を、小学校から一緒で、部活動もバドミントン部で一緒の友達から聞いて、その日の千恵ちゃんは終わった。そしてそれから、中学校に行くことはなかった。
―――――――『人間、ひとりひとりみんな違うんだから、同じ考えなんてないじゃん。同じものを見たって、感じ方はそれぞれ違うでしょ?そんなちーっちゃいこと一つ一つにいちいち傷ついてたら、これからもずっとこのままだよ?千恵ちゃんはさ、卵の黄身みたい。ちょっと殻が引っかかったり、箸が当たったりしただけですぐ破れて、べしょーってなっちゃう。』
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