琥珀色の海


グラスの中には琥珀色の海。

掌へ収まった、その海を傾ける。


浮かぶ氷山が小気味良い音を立て、

スモーキーな香りが鼻先を漂った。


酒をたしなむようになったのはいつからか。


成人の祝いにと、

職場の先輩に誘われたのが始まりだ。


それでも時々、わからなくなる。


酒が好きだから飲んでいるわけじゃない。

酔いたいから、酒を飲んでいるだけだ。


家庭に持ち込むことのできない

会社のいざこざは常にある。

聞かせられない愚痴がある。


それらを堪え、酒で一気に流し込む。

俺の中だけに閉じ込める。


琥珀へ浮かぶ、氷山と同じ。

水面下は見せられない。


そこにはきっと、

家族も知らない

会社員としての俺がいる。


グラスへ映る歪んだ顔が、

泣いているように見えた。

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