全て流れてしまえ


「山と海、どっちがいい?」


 顎からしたたる汗を拭うこともせず、

 君へ言葉を投げる。


 答えを期待しているわけじゃない。

 君はまばたきも忘れて、

 黙って聞いているだけだろうから。


 そんな君はきっと、

 僕と一緒ならどこでもいいよ、

 だなんて答えるだろう。


 自己主張の強い僕に合わせて、

 次第と控えめになっていったね。

 けれど僕は、

 主体性のない人に苛立ってしまうんだ。


 君は日焼けを嫌うから

 きっと海は嫌がるだろう。


「やっぱり、山にしようか」


 君の手を取り、

 トランクに蓋をする。


 シャワーの栓を捻ると

 ぬるま湯が浴室を走った。


「これで、本当にさよならだね」


 辺りへ散った赤いものが

 排水溝へ吸い込まれてゆく。


 僕の罪も、君との思い出も、

 全て流れてしまえばいい。

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