海が見たいと君がつぶやいた。


 季節外れのこんな場所でふたりきり。

 世界に僕らだけならいいのに。


 寄せては返す、この波を見ながら思うんだ。

 押し引きのような駆け引きは好きじゃない。


 日差しへ素肌を晒すように、

 ありのままでぶつかるのが僕のやり方だ。


「朝まで一緒にいられるんだろう?」


「ごめんね」


 君の心を両手で掴んだ気でいても、

 波が引くようにすり抜けてゆく。


「今日は帰りたくないの」


 かと思えば、

 気のある振りで寄り添う時も。


 遊びか。本気か。

 恋人がいると知っているのに、

 理性は押し流されゆく。


 貝のように口を閉ざした僕は

 君の心が開くのを待ちわびている。


 浜辺へ打ち上げられたこの心。

 渇いてしまうその前に、君の全てが欲しい。

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